SANKOU

ブロークバック・マウンテンのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

4.9

このレビューはネタバレを含みます

貧しい二人のカウボーイ、イニスとジャックが羊の放牧の仕事にありつく場面から物語は始まる。
広大な野営区でテントを張り、5キロも離れた放牧地で羊をコヨーテや嵐から守る大変な肉体労働。
初めから意気投合した二人だが、酒を飲み過ぎて寒さに震えるイニスを、ジャックがテントに引き入れた瞬間に二人の関係は急変する。
ジャックはずっとこの機会を狙っており、またイニスもそれを望んでいたようで、二人はテントの中で激しく抱き合う。
二人ともゲイではなかったが、まるで運命に導かれたように強く惹かれ合い、深く愛し合う仲になっていく。
思えばファーストコンタクトの時から、ジャックがイニスに向ける視線は意味深だった。
しかし二人が羊から目を離した途端に、コヨーテが群れを襲い、一頭の羊が殺されてしまう。
また彼らの雇い主であるアギーレはある用事のために放牧地を訪れた際に、じゃれ合う二人の姿を目撃してしまう。
やがて労働の契約期間が繰り上げられ、二人は互いに再会の約束をしないまま別れてしまう。
イニスはアルマという婚約者と結婚し、二人の娘の父親となる。
そしてジャックもラリーンというロデオクイーンと結婚し、彼女の父親の会社で働くことになる。
それぞれに新しい生活を始めた二人だが、互いのことを忘れたことはなかった。
月日が流れ、ジャックは久しぶりにイニスの元を訪れる。
再会した途端に感極まった二人は、その場で抱き合いキスを交わしてしまう。
そしてその様子をアルマに目撃されてしまう。
ジャックはイニスに小さな牧場を持って一緒に暮らさないかと持ちかけるが、イニスは拒絶する。
時代は1960年代。今よりも同性愛者に対する差別がずっと大きかった時代だ。
イニスの少年時代のエピソードが強烈だ。
彼の住んでいた狭いコミュニティーで同性愛者の男が虐殺され、しかも少年時代の彼はその死体を父親にわざわざ見せつけられたのだ。
おそらく同性愛者の男に殺されるほどの恨みを買うような因縁はなかっただろう。
ただ自分たちとは違うマイノリティな存在だからという理由だけで、人の命が脅かされるような時代があったのだ。
そのトラウマのせいでイニスは自分の心の声に従うことが出来なかった。
そして彼に家族を捨てる勇気もなかった。
しかし偽りの愛で飾られた結婚生活が長続きすることはなかった。
イニスはやがてアルマと離婚し、娘たちの養育費を稼ぐために必死で働かなくてはならなくなる。
そしてそれが原因でジャックと会える時間も少なくなっていく。
イニスはジャックに出会ったことで人生が狂ってしまったと打ち明ける。
その言葉にジャックは怒りイニスに掴みかかるが、結局最後は互いに強く抱きしめ合う。
二人が一緒になっても、すぐに喧嘩別れしていたかもしれない。
互いに結婚していたからこそ関係が続いたのかもしれない。
しかしたとえ別れることになったとしても、強く愛し合う者同士はやはり離れ離れになるべきではないと思った。
結局イニスはアルマを傷つけてしまうし、ジャックとラリーンの関係も明らかに倦怠期に入っていた。
その後、唐突にイニスはジャックが亡くなったことを知らされる。
ラリーンは彼が事故死したことをイニスに告げるが、一瞬彼の脳裏にはジャックがリンチされ虐殺される場面が浮かぶ。
もし時代が二人の愛を認めていたら、こんな悲劇的な最後にはならなかっただろう。
ジャックはもし自分が死んだら、イニスと出会ったブロークバックマウンテンに遺灰を撒いて欲しいと遺言を残していた。
しかし彼の両親は遺灰は墓地に埋葬するという。
おそらく両親は自分の息子とイニスの関係に気づいていたのだろう。
そして彼らは同性愛を認めていない。
それでも母親はイニスにまた訪ねて来てくれることを望む。
印象的だったのはイニスが山で失くしたと思われた血のついたシャツを、亡くなったジャックの部屋で発見する場面だ。
そのシャツを愛おしげに抱きしめるイニスの姿が心に残った。
イニスが亡くなったジャックに永遠の愛を誓う場面で映画は終わる。
この映画で初めてヒース・レジャーという俳優を認識したと記憶している。
とにかく彼の演じるイニスが印象的で、大物感漂う風格にこれは只者じゃないぞと思った。その後『ダークナイト』を観て、その感覚が正しかったことを確信した。
しかし公開された時に彼が既に亡くなっていることを知り、大きなショックを受けた。
もし生きていれば時代を牽引する名俳優になっていただろう。
ジャック役のジェイク・ギレンホールもとても好印象だった。
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