えそじま

壁あつき部屋のえそじまのレビュー・感想・評価

壁あつき部屋(1956年製作の映画)
4.5
「突き詰めて、己に還る哀しみを。放つに狭く、壁あつき部屋」


終戦を迎え平和の音も束の間、朝鮮戦争勃発に呼応し再軍備計画が進む日本を背景にした米占領下巣鴨プリズン。BC級戦犯の獄中手記を基に安部公房が脚本を執筆、敗戦国に蔓延る不条理に対し狂犬小林正樹がその反骨精神を剥き出しにした問題作で、プロローグから既に異様な空気を醸し出している。当時アメリカからの圧力により三年の公開延期を強いられたことでも社会批判性の真実味は担保されているようだ。

上官の絶対命令で止む無く捕虜や民間人の殺人・拷問に手を染め戦犯になってしまった人々の被害者的側面を描きながら、決して罪や責任からは逃れられず悪夢に苛まれる加害性も深く掘り下げている。フラッシュバックする戦場のシーンは戦争実体験者である小林正樹ならではのリアリズム?死刑執行された東條英機らA級戦犯七名の怨念のような陰影が付き纏う監獄セットはどこか厭世的で時の流れも遅く、闇の思考を深める。








※以下メモ

プロローグ
「文明と平和の名において裁かれた戦犯達が、ここに服役している。私達がここに訪れたのは無論、単なる好奇心からではない。この日本の過去を葬った墓にも等しい"あつい壁"の中に、八年の間生き埋めにされていた恐るべき真実を一人でも多くの人に訴えたいと願ったからに他ならぬ」


殺伐とした捕虜収容所で米軍人達と交流を分かちあったひと時の想いを綴る横田の手紙
「いつもなら死の臭いのする此処が、かえって聖の匂いの一番強い所だった。庶民が生まれつき持っているヒューマニズムを俺は目一杯に吸い込んだ。此処で俺は生き延びる事を学んだのだよ。俺は欲が深くなった。よし子の存在を常に身体の一部で感じながら、俺は全世界を感じたよ。夢中だったなぁ」

戦後価値観の大転換に突き動かされる民衆を差した横田弟の皮肉
「終戦でみんな汽車に乗り換えるのに夢中になって、行先の分からない汽車に乗ってしまったんだ」
えそじま

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