ずっとうまいことやり過ごしてきたのだが、9月末にとうとうコロナに罹ってしまった。幸い毒性は弱く、普通の風邪くらいの症状だったんだけど、熱が下がってからもなんだか地味にしんどい。自分の歩き方を忘れたり(そんなことある?)、塩味に敏感だったり(マックのパティがしょっぱくて)、なんとなくフラついたりと、妙にスッキリしないのだ。集中力も長く続かなくて、すぐに横になりたくなる。そんななか、一番楽なのがぼーっとテレビを観ることだと気づいた。
というわけで、リハビリを兼ねて、深夜食堂の3シーズンと劇場版2本、Netflix版2シーズンを一気見。あわせて(ここからが本題)、そのうち観ようと後回しにしてたウィッカーマンとか、変態村とか地獄愛とか、めんどくさそうな変な映画を観てみることに。
まずは変態村から。
惜しい。もうちょっとで好きになれたのに。てかこれ、前に観てたわ。脳の配線があちこち断線してるのか、記憶もちょっとヤバいw
そもそも邦題がミスリードしすぎじゃない? ゴルゴダの丘、もしくはイエスの磔刑がなんで「変態村」になるかね。宗教成分抜きすぎ。しかも村の連中は変態じゃなくて狂人だからね。
日本での公開時、ヴェルツは邦題の意味を配給会社に問うたそうだ。「変態村」だと知ったときは、かなりのショックを受けたらしい。本気かどうか「最高!」と返事をしてるw
話はざっくりいうと、誰もが愛を求めずにはいられない魅力的な男マルクの受難劇ってところか。
マルクは嫌々立ち寄った男だらけの村で、グロリアという女性となぜか同一視される。ちょっと厳しめの設定だけど、ここは受け入れないと先に進めないのでまあ良しとして。一定の水準を超える美しい人は男女問わずグロリアなのかもしれない。
おそらくグロリア1も村人に愛や癒しを与える役割を担っていたんだと思われるが、どうやら逃亡した(もしくは殺害された)らしい。
マルクは慰問ツアー中のピン芸人(歌手)なんだけど、どこか中性的に描かれてる。性別を曖昧にしたいのか、それとも監督の趣味なのかは不明。思えば冒頭の舞台メークのシーンから、“この歌手は男性ですけど、役割的には女性です”とでも言いたげな仄めかしがあった。
こういうアプローチの仕方や演出は嫌いじゃない。この作品、「変態村」ってネーミングとは真逆の文芸作品のような佇まいがあり、とても真摯につくられているのがわかる。それだけにインチキな邦題がいよいよ罪深い。
※以下ネタバレ。まっさらな気持ちで観たい人はここでストップね。
狂った村に迷い込んだ哀れなマルクは村人に蹂躙され、輪姦される。混乱のさなか、からくも脱出に成功した彼は、森を抜け、荒野を走り、底なし沼に至る。追手の一人が沼に落ち、マルクは死にゆく男に愛していると告げる。
はははは。ひどいよね。でも最後まで観てられるのは真面目にしっかりつくられてるからなんだよね。
物語をちゃんと閉じるには足りないピースがあるように思う。そのせいで粗い印象になってるけど、逆に変な凄みが出てる。
ぼーっと観てたもんだから、きちんと批評できないんだけど、冒頭で一方的に愛を求められることにうんざりしていた男が、精神的・肉体的苦痛を受け入れること(つまり受難)で、赦し力を獲得したみたいな終着点がなかなか尊い。そう、この映画、無性に尊いのよ。
求めるばかりで、与えることをしない罪びとたちは、神さま(グロリア=神の栄光)に愛想を尽かされた。代わりにマルクを神に仕立てようとしたけど、村人は相変わらず求めるだけ。代わりの神にも結局逃げられてしまう。
彼らは“赦されたがり”なんだと思う。より多くの赦しを得るために競って罪を犯してる節がある。そんなことを日常的に繰り返しているうちに、いつのまにか狂人になってしまったのではないか。マルクが現れたときにみんなで浮かれてポルカを踊ってたのは、これでまた我々は赦しを得られる。愛してもらえるって喜びの発露だったのだろう。
信仰と依存、純粋と狂気、愛と執着、異なるけれど案外近いところにある要素を巧みに取り違えるのが、ファブリス・ドゥ・ヴェルツのやり口だ。
求めよ、そうすれば、与えられるであろう。探せ、そうすれば、見出すであろう。門を叩け、そうすれば、開けてもらえるであろう。
すべて求める者は得、探す者は見出し、門を叩く者は開けてもらえるからである。
(マタイによる福音書)
ぼくも好きな一節だけど、欲しがればもらえると、実に都合よく解釈できるんだな。米国やロシア、イスラエルなんて神の名のもとに戦争やるくらいだから、もう神の赦しなどとっくに終わってるんじゃない?
お前らみんな神の愛を何だと思ってやがる。舐めてんのか? 原罪が赦されてるからっていい気になるなよ。神さまはまだギリギリ我々を愛してくれてるけど、もうそろそろ限界だからな!
…粗いけどそんなヴェルツのメッセージは届いた。決してお気に入りとは言えないけど、好きか嫌いかでいうと好きな映画。