Shelby

夢売るふたりのShelbyのレビュー・感想・評価

夢売るふたり(2012年製作の映画)
3.6
小料理屋を営む仲睦まじい夫婦、貫也と里子。
5周年を機に常連さん達からのお祝いを受けている以外、いつもと何ら変わりない日常。
そんななか目を離した隙に料理から火が店に燃え移り、辺り一面火の海と化す。
失意の中、貫也がとあるきっかけに大金を手にしたことから物語は動き出す。

このどろどろ感がたまらない。そこまで評価が高くなかったので期待せずに見たものの、松たか子と阿部サダヲの演技に脱帽。ふたりに共通するのは、細かな心情の動きがリアルに表現されている演技。よりクローズアップされる心の機微が見ていて胸をえぐられる。
例えば、内側で静かに燃え揺らぐ里子の憎悪と復讐心。詐欺を働くことで、どんどん底なし沼に片足を突っ込んでいき戻れないところまで来てしまったふたりの後悔と自責の念。けれども進み続けるしか道はないという悲しい選択。
夫婦ふたりの時間、もしくは感情の昂った時にしか出てこない貫也の九州弁。その田舎くささが尚更、物語をよく仕立てあげてくれている。

大金を手にした貫也が大急ぎで家まで走って帰るセクション。あっという間に金の出処を突き止められ、風呂で貫也の浮気を問い質すふたりのやり取りは個人的にどハマりした。ドSな松たか子もなかなかオツなものである。
他にも松たか子が生理になるシーンや放尿、自慰をする場面など。よくもまあOKしたなというくらいひとりの卑しい女を演じてくれていた。

人としては決して褒められはしない、寧ろ犯罪である結婚詐欺を幾つもやってのけるふたり。個人的に、あの詐欺の数々が里子の復讐だとするならば、貫也が何故文句を零しながら従っていたかが謎すぎて。

「お前の足りんは金やなくて腹いせの足りんたい。」

このセリフに見ていた私がドキリとしてしまったほど、核心をついた会話を繰り広げておきながら大人しく里子の計画に従い続ける意味が分からなかった。夫婦の愛?妻への罪悪感?罪滅ぼし?
どれも当て嵌らないような気がしてならない。

ただ、終わり際の里子が猛ダッシュで逃亡を図り、手からこぼれ落ちる紙面がふたりの夢だったとするならば素敵な終わり方だなあ。
すべては幸せのため。追い求めていたものがこぼれ落ちていくラストの喪失感。更に、作中を通して感じる出口のない閉塞感をうまく表現してくれた監督に感謝。
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