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浮き雲のshinsuke07のレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
3.9
素晴らしい映画でした。

始まって間も無く、特に落ち度もない中年の夫婦に非情な現実が襲いかかりますが、悲劇に見られる劇的な展開や感情の爆発といったものはここには存在しません。

不幸な現実に直面した多くの人がそうであるように、2人も戸惑い、反発し、また諦めかけます。
寡黙に淡々と2人は劇性のない悲劇的な状況と向かい合い、その中からある希望を見出し映画は終わります。

ラストシーンでさえカタルシスは乏しく、過度なドラマ性を排し日常を丁寧に再構成しているのが読み取れます。
リアリズムに立脚した日常の描写から、自分とそう遠くない所にこの映画が存在しているのを感じます。

それしか方法を知らないかのように、何かある度に妻に花束を買ってくる夫や、意固地で寡黙な夫の苦悩をそっと包み込む妻。

ささやかに描かれるやるせなさや慈しみに、キュッと胸を締め付けられるような感覚を覚えます。
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