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ブライトスター いちばん美しい恋の詩のodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【詩人を描く難しさ】

詩人ジョン・キーツを描いているということと、ヒロインをアビー・コーニッシュがやっているという2つの興味から見てみました。アビー・コーニッシュは世界的に見ても有数の美人女優だと私は思っているからです。

しかし、久しぶりに彼女の姿を見て、ちょっと太ったかなと気になりました。服装がバストのすぐ下をウエストラインとしてまとめているものばかりなので――19世紀当時の英国はそういう服装が一般的だったのでしょうか――よく分からないのですが、横から見てもやや太めな印象で、うーん、美人女優は体型維持にも注意してもらわないとなあ、と苦笑いした次第です。しかし容貌の美しさは相変わらず。彼女ほど整った美貌の主はそうそういないと断言してしまいましょう。

さて、肝心の映画のほうですが、映像面ではたいへんに美しく、一見の価値があると言えるでしょう。当時のロンドン郊外の景色も興味深い。

ただ、筋書き面で言うとやや単調です。詩人の恋の物語なのですが、波瀾万丈のストーリーがあるわけでもなく、恋人のファニーとの細かな心情面での関わり合いがメインになっているのですけれど、視点がどちらかというとファニーにあり、詩人キーツの内面や生い立ちにはあまり光が当てられていません。キーツは詩人としてはともかく、経済的な成功を収めるわけではないので、二人の関係はファニーの細かな心の動きだけに左右されてしまい、起伏に乏しい印象を与えるのです。キーツと同居する友人の詩人が道化役的な役目を果たしますが、どうもあまり有効に働いていない。

それと、キーツの貧乏なことには映画でも何度か触れられていますが、もう少し金銭面での問題を具体的に出したほうが良かったのではないでしょうか。金銭の話が全然出てこないわけではないものの、なんとなく貧乏なキーツ、中産階級らしいファニーというだけでは迫力がありません。何にいくらかかかる、といった生々しい話がもっと出てくれば、二人の恋人がいかに経済面での齟齬によって振り回されていたかが観客によく伝わったはずですし、全体の単調さがそれによって多少は緩和されたのではないかと惜しまれます。

以前別の映画のレビューにも書いたことがありますが、同じ芸術家を描くのでも、音楽家や画家に比較して作家や詩人を映画にするのは難しい。音楽や絵は直接的に鑑賞者の感覚に訴えるので観客の国籍に左右されることが少ないのに対し、文学は言葉によって表現を行うので、その言葉=外国語が十分には分からない観客にはその芸術(文学)の偉大さも十分には得心がいかないのです。キーツの詩句"a thing of beauty is a joy forever"は日本人にも比較的よく知られていますけれども、そうでない詩句についてはその素晴らしさが感覚的には理解しにくいという限界を、いやというほど感じさせられた映画でもありました。
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