ジェームズ・キャグニーとロン・チェイニーは実際顔立ちといい体格といい全然違うのだけれど、段々と同一人物に思えてくるようになってくるのが凄い。演じる役に強引に自分を寄せるのではなく、自分のキャラクターでナチュラルに役を引き寄せる…これぞ一流の芸。
物語は色々な関係者に気を遣っているせいなのかショービジネスや映画という胡散臭いやつらが五万といる世界なのに清廉に描かれ、登場人物も主人公を含め善人ばかり。最初は典型的な偉人伝を見ているようでつまらなかったが、一人目の妻と結婚してから主人公ロン・チェイニーの人間性がにじみ出てきて面白くなってきた。両親が聾唖者でそのことを差別されてきた主人公の過去、そのことがきっかけで疎遠になり離婚することになった妻、裁判所の命令により全寮制の学校に引き取られてしまった息子、そんな息子を自分の元に引き戻すため役者としての成功を目指し必死に頑張るチェイニー。別の女性と結婚し息子を引き取っても、実の母と再会した息子は彼女のところへ行ってしまう…。成功者というにはあまりにも苦難ばかりの役者の実像を、キャグニーは血のかよった人間として見事に演じる。
でも二人の妻と主人公の関係性は美化されているきらいがあってちょっとつまらなかったかな、本当はもっとどろどろだったわけだしそこを掘り下げていけば複雑な人間ドラマの面白さを追求できたのに。特に二人目の妻ドロシー・マローンは完璧な良妻賢母なのがなあ、元々ダンサーだった人があんなに常識のある奥さんになるのかしら。
両親とのことで主人公が覚えた手話が随所に出てきて、それを理解する父母や息子とやりとりすることで彼らの関係性の深さを表現する演出に心温まる。そして中盤、二人目の妻に隠れて父と子が軽妙な手話のやりとりをする展開が終盤大人になった息子との会話に繋がるのがグッと来る。
ロン・チェイニーが亡くなると同時にカメラが移動し、部屋に飾られたそれまで演じてきた役の絵を映していくラストの粋なリスペクトも◎。