菩薩

風たちの午後の菩薩のレビュー・感想・評価

風たちの午後(1980年製作の映画)
4.5
恋をする私に必要なのは四畳半程度の部屋と貴女に届くだけの声。ネックレスは少しだけ首輪のつもり、薔薇は精一杯の告白、けれどそんな想いは届かない。黄色いハンカチは幸福の証だなんて言うけれど、白いハンカチは嫉妬で揺れる、あの狭い部屋で、私と貴女二人の世界で、貴女は今あの人に抱かれているのね。布団に着いた湿っぽい匂い、私には辿り着けない香り、私は貴女の全てが欲しいのに、私は貴女の何も手に入れられない。私は今日あの人に抱かれたわ、貴女を手に入れる為に、シーツに流れた血で綴るのは、愛する貴女のその名前。貴女が履いた下着も、貴女が咥えた歯ブラシも、全てが私の物になれば良いのに、けれどやっぱり、私は何も手に出来ない。世界なんて狭くて良い、何処にも行けなくて良い、私の視線が貴女に届く距離、貴女の声が私に届く距離、世界はそれだけあれば充分だ。貴女の生活、その全てが愛おしい、貴女の存在、その全てが愛おしい、だけどこの想いは愛とは呼べないの?シャボン玉は屋根まで飛ばずに弾けて消える、私の想いも貴女に届かず弾けて消える。このお腹には新しい命が宿っている、貴女が宿すはずだった命、私と貴女の為の命、だけどその命は、これでもう私だけのもの。さようなら、愛していました、ある夏の日の午後、貴女の世界で少しだけ眠らせて頂戴、おやすみなさい、愛する貴女よ。
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