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天使の肌のtakのレビュー・感想・評価

天使の肌(2002年製作の映画)
3.0
 あなたには、その後の人生を大きく左右されたような出会いがありますか。大なり小なりあるとは思うのだが、それがたった一度きりの出会いで、生涯忘れられなくなるほどの経験はなかなかないと思うのだ。フランスのイケメン男優であるヴァンサン・ペレーズの監督作品である「天使の肌」は、そんな出会いに翻弄された純粋な心をもった少女の物語。彼の主演作で思いつくのは、カトリーヌ・ドヌーブに誘惑されちゃう若い軍人を演じた「インドシナ」、ソフィー・マルソーにストーカー的片思いをする「恋人たちのアパルトマン」。他にもいろいろあるのだが、彼がその2本で演じた役は、どちらもその女性との出会いが彼の運命を大きくしかも劇的に変えることになるものだ。運命の女(ファム・ファタル)に翻弄されるお話は、人間模様を描ききるフランス映画なら当たり前の題材だろう。でもそれ以上に、一途に真剣に人を思い続けることをこの「天使の肌」は教えてくれる。それはペレーズ監督が役者として培ってきたことかもしれない。

 貧しい家庭に育った主人公アンジェルは住み込みの家政婦として働いていた。ある日、母親の葬儀で帰郷していた男性グレゴワールと出会う。母を失った悲しみと自己嫌悪。グレゴワールは音楽プロデューサーだと戯れに嘘をつく。家政婦の友人が音楽好きのアンジェルを彼に紹介したことが二人の出会いとなった。嘘を告白したグレゴワールは悲しみを癒したい気持ちから、アンジェルと一夜を過ごす。アンジェルにとっては初めての経験だし、グレゴワールに対する気持ちも初めて味わうもの。しかし、グレゴワールは姿を消してしまう。彼にとっては一夜の癒しに過ぎなかったのだから。彼は製薬会社に就職し、社長の娘に気に入られるが、心のどこかではアンジェルを忘れられずにいた。一方、アンジェルはグレゴワールへの思いから同じ製薬会社社員の家で働くが、ここで事件に巻きこまれ、無実の罪で投獄されることに。それでも自分を主張せず淡々と日々を受け入れていくアンジェル。しかしアンジェルがグレゴワールの知人であることが、グレゴワールの結婚や生活に障害になり始める・・・。

 何とも勝手な男。ギョーム・ドパルデューその人を悪く思ってはいないけど、「ベルサイユの子」といい本作といい・・・あまりよいイメージは残らない。この映画はアンジェルを演ずるモルガーヌ・モレが最大の魅力。純粋な心で彼を思い続けるのだが、かといって耐える女でもなく、愛に疑問を抱き続ける迷える存在でもない。ただ神を信じない。それだけ。この映画がアンジェルの姿を通じて訴えたいのは「許し」なのではないだろうか。自分を捨てたグレゴワールを(彼にはそういう意識すらないだろうが)、自分を働きに出した両親を、こういう運命を歩むことにした神をもアンジェルは「許し」続ける。だから神を信じない彼女が修道院に身を置き生活することができたのではなかろうか。アンジェルの死を知ったグレゴワールが再び帰郷し、母の墓を訪れるラストシーン。それは母に素直に向かい合い「許し」てもらいたかったから。そんな彼の姿をも、アンジェルは天からものを言わず見守っているのだろう。不思議な余韻を残すフランス映画。
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