Jeffrey

ベルリン・アレクサンダー広場のJeffreyのレビュー・感想・評価

4.0
「ベルリン・アレクサンダー広場」

冒頭、不況の1920年代のベルリン。出所した男。レイプ、殺人、生活基盤、共産主義者、靴紐売り、愛人、暴力、酒浸りの日々、組織、取引、ナチ党員。今、1人の男の壮大なストーリーが展開される…本作はアルフレート・デーブリーンの長編小説をライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが1980年にテレビシリーズとして監督した15時間越えの傑作をこの度、BDを購入して初鑑賞したが素晴らしかった。まず、1920年代のベルリンを舞台にした都市小説で、現代ドイツ文学をファスビンダーが手掛けたって事がまずファンとしては胸熱である。

この作品は登場人物がかなり多いし、ストッキングをかぶせた演出によってカメラが暗くなってしまい、本来見えるべき場面が非常にわかりづらくなっているのが唯一の欠点だろう。

さて、物語は不安定な1920年代末のドイツのベルリンを舞台に、第一次世界大戦敗戦の痛手で社会が苦しんでいる最中、様々な犯罪が増加し横行する。議会政府はぶっ壊れ、港ではナチと共産主義者の対立が加速し始める。一方でベルリンはヨーロッパ有数の大都市メトロポールとして復活する。そしてこの激動の時代を1人の男フランツ・ビーバーコップを軸に受難に満ちた彼の"普通"への憧れを物語として描く。


本作は冒頭に静止画が映し出され、その中にうっすらと列車の描写と音楽、車列音がなされる。そしてタイトルロゴが出現し物語が始まる。ファスビンダーの作品はあらゆる傑作があるが、超大作と言える作品は間違いなくこの作品だろう。15時間以上のこの13エピソードとエピローグで連なるこの作品は彼の映画史上最高傑作と言ってもいい、頂点を極める壮大さだ。

それではそれぞれのエピソードのタイトルと時間、物語を下記に個人の意見として書いていく。

第一話 処罰が始まる(82分)

物語は主人公の男フランツが恋人イーダ殺害の罪で服役をし、出所するシーンから始まる。彼は大都市ベルリンの中で行き場を失うが、ユダヤ人の世話になる。そして長らく女と寝ていなかったので、娼婦を買うがうまくいかない。そして旧友の男や殺害した女の妹などとの絡みが入り込み、酒場での出来事、警察署からベルリン立ち退き勧告が届くまでのストーリー、更生保護観察局に掛け合い、ベルリン滞在を許されるまでのフランツの葛藤が写し出される…。

第二話 死にたくなければどう生きるか(59分)

フランツは生活のために街頭販売を始める。そしていろんな仕事をする(ポルノ雑誌の販売など)。行きつけの酒場(新世界)と言う所ででナチ党員の軍人に出会う。その男にナチ党新聞販売の仕事をさせてもらい、ナチスのシンボルマークの腕章をつけて街頭に立ち彼は宣伝をするが、共産主義者たちの目に留まり挑発を受けることになる。やがて、フランツが今の人々は血流ではなく安息と秩序を求めているのだと力説していくのだ…。

第三話 脳天の一撃は心をも傷つける(59分)

演説した後にフランツは職を失ってしまい、リナと言う女性の知人オットーと言う人物と出会い、2人で靴紐売りを始める。そうした中、とある玄関先に立った彼が黒服の未亡人がこちらを見て動揺する姿が映る。彼女はフランツが死んだ夫にそっくりだったから驚いていたようで、孤独だった彼女にフランツは優しく手を差し伸べる。そして2人の楽しい時間が始まるのだが、親友である男にこのことを言うと、その男も未亡人を訪れるようになり、それが後にフランツと未亡人の関係を悪くする、そしてそれを機に彼はリナに何も告げず、1人で行方をくらますのだ…。

第四話 静寂の奥底にいる一握りの人間たち(59分)

フランツはバウマンと言う人物の住まいで生活をする。日々酒に溺れていく。彼は聖書のヨブになぞらえて、自らのどん底をどうにか変えたいと思うが、その術がわからない。そうしたフランツをバウマンは優しく見守る。そうした中、エヴァと言う女性が居場所を聞きつけて援助を申し出るが、彼は断る。やがてフランツの住むところに強盗事件が発生し、彼はその事件に隣人の夫妻が関わっていることを知る。だが、警察の取り調べの場でもフランツは夫妻の犯罪を暴露しようとしない。徐々に体が復活していく彼はこの生活に終止符を打ち、元の住み家に帰る。そこで旧友メックがイカサマ商売をやっているのに遭遇する…。

第五話 神様の力を持った刈り手(59分)

フランツはメックの商売の元締めの仕事仲間に誘われるが断る。その仕事仲間の一味の1人ラインホルトと言う人物と知り合い、打ち解ける。彼が飽きた女をフランツは次々と引き受ける。その中にフレンツェと言う女性がいる、家庭的な彼女とフランツは快適な生活を送る。ラインホルトの次の女チリィを引き受けることになったらフランツは、フレンツェを乱暴に追い出す。これは全てラインホルトとの友情のために行っていたことで、チリィは彼のことを悪党だと罵り始め…。

第六話 愛、それはいつも高くつく(58分)

フランツはラインホルトの女癖の悪さを直そうとして、次の女トルーテを引き受けるのを拒否する。ラインホルトはそれに対してブチ切れる…が結局は彼女との生活を続ける。そんな時にフランツは仲間の手下が逮捕される現場を目撃する。それを伝えに行ったところ、仕事に協力するよう要請される。そして品物の強盗をする見張り役をすることになったフランツは、裏切り者だと思ったラインホルトがフランツを逃走中の車から放り出すが、何とか一命を取り止めるのだった…。

第七話 覚えておけ-誓いは切断可能(58分)

フランツは負傷により右腕を失い、エヴァの家で看病される。一方フランツの口封じのために見舞金をつかませようとするプムスはブルーノと言う手下に彼を殺そうとさせる。フランツは反撃しようとするが、力があまりなく発作を起こして倒れてしまう。そうした中、再び酒浸りになった彼は飲み屋で知り合った陽気な女性エミーと意気投合する。彼が連れ立って出かけた酒場でヴィリーと言うチンピラ若者とも知り合い始める。彼は職にもつかず闇取引で気軽に暮らしている男だ。フランツはヴィリーに自分の住所を教えて立ち去って行く…。

第八話 太陽は肌を暖めるが時に火傷を負わす(58点)


フランツは自宅に戻るが自堕落な人間に成り下がっている。そこへチンピラのヴィリーが訪ねてくる。早速彼らは組んで闇商売を始める。貧困的な暮らしをしているフランツの元へある日エヴァがやってくる。彼女は彼に新しい女を紹介する。その女性はまだ若く美しい人だ。彼は彼女をミーツェと名付ける。2人は中睦まじい生活をし始める。所があることがきっかけで絶望する…。

第九話 多数派と少数派の間の永遠の隔たり(58分)

フランツはミーツェに養われ、ヒモになる。理由は彼女が彼を働かせたくないからである。そんな中、フランツはラインホルトを訪ねる。一度は殺害しようとした彼をフランツは憎みもせずに不思議な友情が生まれつつある。ある日、フランツはヴィリーに誘われ、政治集会に参加する。資本家を打倒するべく連帯する。そこで力説する。後に金持ちのためにできた秩序は全て権力者のものだと演説し始める。世間の不条理を感じ取るー場面である…。


第十話 孤独は壁にも狂気の裂け目を入れる(59分)

エヴァは愛人が借りている部屋にミーツェを案内する。そこで不妊のミーツェの代わりにエヴァがフランツと子供を作ると言う密約が結ばれる。その頃、フランツは職にもつかず、いよいよ酒に溺れて行ってしまう。だが、酒場で耳にするのは生活が困難になると言う暗い話ばかり、酔ったフランツは夜中に自分がかつて入っていた刑務所を訪れる。彼の周囲の人々はまた同じく殺害するのではないかと言う不安に駆り立てられる。そしてミーツェは金持ち男に囲まれる生活を始動する。それは彼にとって孤独な時間が増えるだけである…。


第十一話 知は力 早起きは三文の得(59分)

フランツは再びラインホルトのもとを訪れ、プムスと一緒に仕事をしたいと申し出る。彼はそれで稼いだ金をミーツェに渡す。ラインホルトは密かにミーツェに会い、フランツの真意を探ろうとする。一方フランツはミーツェとの仲良しぶりをラインホルトに見せつけようとするために、自分の部屋に招く。だがベットに隠れたラインホルトの前で帰宅した彼女は愛人の甥に一目惚れしたとフランツに告白する…彼は怒りのあまり彼女を殴り続けて、危険な状態になる。だがラインホルトが制止に入る。翌朝エヴァの仲介で仲直りした2人は郊外の森に出かける…。



第十二話 蛇の心の中にいる蛇(59分)

ミーツェはフランツに行きつけの酒場に連れて行ってくれるようにせがむ。そこで彼女はメックやラインホルトに紹介される。疎遠の中になっていたフランツとメックだが、フランツは彼女に彼はいいやつだと紹介する。ラインホルトはフランツが恋人連れでいるのが不愉快の様子。ラインホルトはメックに仲介させてミーツェと2人だけで会える様策略する。そしてミーツェの命を奪う事を決める…。


第十三話 外側と内側、そして秘密に対する不安の秘密(59分)

エヴァはフランツの子供を宿す。2人は喜び合うが、ミーツェが帰宅しない。フランツはミーツェを探し回る…結局見つからず。一方でラインホルト等は元締めプムスに中間搾取容疑をかける。だが、メックが失敗し頓挫する。警察に通報、新聞には犯人の写真、エヴァの前でのフランツとラインホルトとの愛憎が明らかになる…。


第十四話 エピローグ/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー フランツ・ビーバーコップの夢についての私の夢(112分)

フランツは警察に捕まる。しかし意識不明で精神病院へと送られる。なりすましたラインホルトは軽罪で逮捕されるが、男と寝る羽目になる。後に彼は裁判で殺人罪が認められる。そしていよいよ物語はクライマックスを迎え、すべての登場人物が一同に会する。そして普通の男になりたかったフランツの迫りくるナチスの脅威が最後に描かれ、キノコ雲が現れるのだ…。

➖➖➖➖➖➖ここまで➖➖➖➖➖➖➖


物語はこういう感じなのだが、ぶっちゃけ原作を読んでいない為、あまり上手く評価はできない。だが、この作品は途中から主人公が2人になる。それは冒頭のフランツの人生を描きつつも途中から入ってくるラインホルトである。ちなみに同性愛を彷仏させるシークエンスがある分、原作に実際にそういうのがあるのかも気になる。監督自体がゲイなので、そういった要素を含んだのじゃないかと推察もできる。だが話の流れ的には実際にそういう雰囲気に陥るのだろうとは思う。

だけど、小話を連続的に見せているので物語は普通に感じてしまい、面白みに欠ける。だが、ここまで膨大な時間を取る作品なので、複数の伏線が絡み合い、宗教的な問題なども入り混じっている。謎解きのようなストーリーは面白くて良い。平凡の生活を掴むって大変な事なんだと、主人公フランツと周囲の環境を見て思った。

やはりファスビンダーの作品を多く見ていると、この主人公の名前フランツと言うのが多く出演している。彼にとってこの名前は非常に大事なものなのだろう。それにしてもこの「アレクサンダー広場」が78年にようやく企画として制作され始めたその同じ年に、彼の大傑作とも言っても良い「マリア・ブラウンの結婚」も同時期に撮影していた経緯を知っているとかなり驚いてしまう。そもそも長大なドラマはドイツでもはじめてだったようだ。

余談話なのだが、もともとテレビの視聴率の方がわざわざ劇場に足を運ぶ観客とは桁違いに影響力があると考えた監督が、テレビ版では過激なシークエンスを極力抑え、劇場版も作ろうとしていたらしい。さすがに叶わなかったそうだが、その変わりにエピローグとして過激なシークエンスを取り入れたラストの追加話がきちんと制作されている。そういった経緯も知るとやはりこの作品はファスビンダーにとって集大成であり、挑戦的な1本なんだなと思わされる。

この撮影話を色々と知るとかなり無謀な挑戦というかアイディアに満ち溢れていたこともわかった。これは劇場で見るのもいいのかもしれないが、特典映像が付いているDVDボックスもしくはBDボックスを購入して解説書込みで見ると非常にわかりやすくスムーズに頭の中に入っていくと思う。監督の特性である早撮りが例外的に早いスピードで放映されたらしい。1980年10月12日に第1話が始まり、同年12月29日にエピローグが放映されたとの事だ。ちなみに制作費も長大な物語にしては低予算だったらしい。

それにこの作品は不幸なことに大衆新聞であるドイツのビルト紙の意地悪な宣伝によって公開前から誹謗中傷の嵐になっていたそうだ。当初、夜8時15分から放映枠を確保していたが、あまりの誹謗に急遽夜9時半からの変更になったそうだ。もともと監督が望んでいた家族揃っての視聴がこれによって叶わなくなってしまったとの事。なんともひどい話である。さらに放映回を重ねるごとに視聴率は急激に落ち込んでいたそうだ。いつの時代にもこういった新聞社の品性下劣で心の底から侮蔑したくなるような卑怯な出来事ってあるんだなと思わされた。

しかも監督自身が殺人予告を受け取ってしまい、警察の保護下にもいたそうだ。結局ベネチア国際映画祭で特別上映されて絶賛の嵐だったようだが、ドイツ国内では残念ながら非難の嵐に終わったそうだ。やはり当時のドイツではこの「アレクサンダー広場」は批判の的になってしまう内容なのだろう。確かに映画自体は暗く重いし…政治的だし…。だけど実際の批判の理由というのが画面の暗さだったそうだ。テレビに放映するとかなり暗くなり、視聴者がクレームを入れたそうだが、スクリーンに映るこの作品は逆に明るさを取り込み、映像美が観客や批評家に存分に絶賛されたそうだ。



それにしてもあの森の中での出来事は衝撃的である。あんな閉鎖的な空間であのような息苦しいことが行われるとは…。
それにカモにされ、片腕をなくし、恋人まで失ってしまうフランツの受難は計り知れない…俺は彼の痛みに到着する事は死ぬまでなかろう…。ラインホルトとフランツの関係があまりに非現実的過ぎるのは敢えてなのだろうけど、中々フランツに感情移入はしずらかった…それは女に対しての傲慢な振る舞い方もそうだった様に…。

だかしかし、フランツは本作に於いては魅力的である。この映画は裏切られ続ける作風と解釈していいだろう…。フランツの関係から様々な人との出会いが彼を不幸にする。だがそれは彼にとっては恋する事であり愛する事なのである…。とにもかくにもこの一大プロジェクトの芸術的な結果に終わった15時間と言う超大作は1度見ておくべきかもしれない。

しかしながら、2度見る事は絶対にない。

最後に、この作品に出会ったのは14歳の頃だったらしく、ファスビンダーが同性愛的思考に悩んで様々な不安にさいなまれて危機的状況にあった時に、この作品を読み終えて人生そのものになったと告白している。


傑作。
Jeffrey

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