Tラモーン

ミステリー・トレインのTラモーンのレビュー・感想・評価

ミステリー・トレイン(1989年製作の映画)
4.5
「ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ2021」にて劇場鑑賞して来ましたので再レビューします。以前のレビューにいいねを下さった皆さん申し訳ありませんm(__)m


まさか『ミステリー・トレイン』を映画館のスクリーンで観られるなんて。冒頭の列車がこちらに走ってくるオープニングだけでワクワクしてしまう。
永瀬正敏と工藤夕貴が車窓を眺めたり、退屈そうにしながらヘッドホンでカセットウォークマンから流れる音楽を聴いているだけでニヤニヤしてしまう。

ジャームッシュの魅力というのは、登場人物たちの人生の描き方にあると思っている。たった2時間ばかりの作品の中で、ジャームッシュの描き出すキャラクターたちは不思議とそこに至るまでの道のりや、これからどんな人生を送っていくのかを想像させる息吹のようなものを感じさせてくれる。

今作は『Far From Yokohama』『A Ghost』『Lost In Space』の3篇立てになっていて、それぞれ同じホテルで同じ時間帯が舞台になっている。3組の登場人物たちは微妙に繋がりつつ、でも決して交わることはなく、だがしかし確実に同じ空間と時間を共有している。それでもそれぞれがホテルの部屋を出るときに持つ感情は全く違っていて、それぞれに先の人生がある。

でもジャームッシュはどの人生がよくって、どの人生は悲惨かなんて描き方はしない。それぞれに人生があって、どれも間違いでも正解でもないからだ。この映画には全ての人生を肯定してくれるような優しさを感じる。


久しぶりに観たけど、やっぱりカッコイイなあ。

ジュンとミツコがトランクの取手に棒を通して並んで歩いてるシーンはめちゃくちゃ可愛いし、かと思えばホテルの部屋の窓際に立つ永瀬正敏の横顔のカッコよさよ。細いパンツにラバーソウル、耳に挟んだタバコとコームで決めたリーゼント。カッコイイ。

パンフレットに書いてあったけど、ミツコが足でジッポの火を付けるシーンは工藤夕貴が足先が器用ってことで決まったアイデアなんだって。
永瀬正敏がジャームッシュとの思い出を綴っているこのパンフ必見です。


2編目は他のエピソードと比べて少しパンチが弱い気もするけど、ルイーザなんて偶然が重ならなければメンフィスで一晩を過ごすこともなく、ましてや見ず知らずのディディと相部屋になることなんてなかったんだからこれも長い人生のうちの一夜だと考えると面白い。エルビスの幽霊のオフビート感は流石。

オチに当たる3篇目。全編共通して聞こえる銃声のネタばらしでもあるクライマックスの間抜けた雰囲気が最高。
あの3人の表情と「失礼」と言ってドアを閉めるベルボーイのサンク・リーの間。こんなに表情と間だけで面白いことあるか。

失業してヤケになるジョー・ストラマー演じるジョニーの危なっかしさと、巻き込まれ型俳優スティーブ・ブシェミ演じる義兄のチャーリー、同僚のウィルのドタバタ感が終始面白い。
ラスト間際で担がれながら酒を飲まされて「やめろ!ドジ!」って怒鳴るブシェミが可哀想で可愛い過ぎる。

永瀬正敏がカッコよくキメてたジッポトリックをたどたどしく練習するジョー・ストラマーも愛おしい。

「好きで白く生まれたんじゃねぇ!」ってセリフがあったけど、メンフィスという土地柄、白人が生きづらかったのかな。エルビスとあだ名されるのを嫌ったり、英国からの移民であることをバカにされたり、きっとジョニーがヤケになるのにはいろんな鬱積があったんだろう。

それぞれの一晩を経て、悲喜交々を抱えてホテルを出た3組。オープニングと反対方向へ走っていく列車。これからも人生は続くのだ。
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