Xでオススメしているポストを発見し早速鑑賞。
無線盗聴マニアの金村(浅野忠信)はテレビ局の取材の最中に、暴力団員が拳銃を駅のロッカーに隠したという内容の電話を傍受する。スクープに色めき立ったディレクターの岩井(白井晃)は金村の車を強引に現場に向かわせ、本当に拳銃を持ってきてしまう。
マジかよってくらい面白い。
浅野忠信は大好きな役者だったけどこの作品の存在は知らなかった。本当に凄いモキュメンタリー作品だ…!
まず冒頭からこれ浅野忠信か?ってわからないくらいの見た目、口調、雰囲気まで役づくりが凄い。
よく見ると顔こそ綺麗だけど、どこからどう見ても社会にちょっと適合できてない無線盗聴オタクにしか見えない。朴訥ではあるもののどこかネジが飛んでいて、他人の電話や無線を盗聴することに後ろめたさは感じていない。盗聴はするけど面倒なことには巻き込まれたくないという自分勝手な狂気を内面に孕んでいる。
"知らないっていうのは何もないのと同じですからね"
"電波は必ず誰かが聞いてると思ったほうがいいですよ"
そんな金村を好奇の目で取材する岩井を演じた白井晃も凄い。取材始め当初こそ金村を気遣うような素振りを見せているが、次第に視聴率やスクープのためなら何でもするという狂気にも似た強引さを表面化させる。
穏やかだった取材が拳銃を発見してしまったことから一気に不穏さを増していく。関わりたくない金村と、スクープに取り憑かれた岩井のエゴが衝突し胃が痛くなるような不快感が画面を支配する。
そしてその拳銃で金村が、絡んできたチーマーに発砲してしまったことから事態は急転。金村が溜め込んできた不満と、内に秘めた狂気が噴出。地獄の逃避行が始まる。
金村は当事者になりたくなかった。ただただ安全圏に身を置き、ひとり傍観していることが彼の楽しみだったのだ。
その聖域を侵された彼の怒りの矛先は岩井たちテレビクルーに向けられる。
"お前脅されりゃなんでもやんじゃん"
"テレビなんて思い上がってるだけだよ"
90年代後半の作品だから情報社会と無関心な若者や、マスメディアの暴力に対するアンチテーゼがテーマなのだろうか。
2つのエゴがぶつかり合い、最悪の事態へと転げ落ちていく胸の詰まるような緊張感が凄まじい。
運転しながら"なんで俺がこんな目に遭うんだよ‼︎"と喚き散らす金村は、自分だけが不利な証拠を握られたことを嫌い岩井とアシスタントの女性にとんでもないことを強要する…。
ネタバレはしませんがかなり不快な描写なのでご覧になる際はちょっと覚悟しておいてください。
動転してタクシーにクラクションを鳴らしまくったり、フロントガラスについた血をワイパーで拭いたり、細かいところの演出がリアルすぎて胃がキリキリする。
そして呆気ないラストシーン。
金村は本当に悪い奴だったんだろうか。
"なんか言うなら早く!"
LOW BATTERYという表示に慌てるカメラマンの最後のセリフが1番イカれてるかもしれない。
この作品は70分という上映時間だからこそ完璧なんだろうな。マジで体感あっという間の衝撃映画体験。