ブラックユーモアホフマン

8 1/2のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

8 1/2(1963年製作の映画)
4.1
映画監督にとって映画作りとは人生そのもの。だから人生が行き詰まれば映画作りも行き詰まる。

プロデューサーやら他のスタッフやら、役が欲しい女優やらほとんど素人みたいな奴らやら、愛人やら妻やら……四六時中面倒事に巻き込まれ、全員にちょっと待って、ちょっと待って、と言って回る主人公。
表面上は愛想良く礼節正しく振る舞っているが、内心は「うるせえなどいつもこいつも!ちょっと放っといてくれよ!!映画?作れねえもんは作れねえんだよ!!」と思っていたに違いない。

色んな映画に影響を与えただろうから、色んな映画を想起するのは当然だろうけど、特に思い出したのはアラン・レネの『去年マリエンバートで』や『ヒロシマモナムール』。あとはジョセフ・ロージーの『エヴァの匂い』。バキバキにキマった画面の気持ち良さ美しさと、現実と妄想の混濁したビジョン。

内容で言うと、家から離れた場所に缶詰めになって物作りに苦しむ男が主人公というところでヴィスコンティの『ベニスに死す』、映画作りに苦しむ映画監督が自身の幼い頃の記憶を思い出すという構成でアルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』を思い出した。

それから『ロスト・イン・ラマンチャ』ってリアル『8 1/2』みたいだったなと思う。フィクションじゃない分、もっと悲惨で目が当てられないラストだったけど笑

しかし大巨匠の歴史的傑作にこんなこと言うのは恐縮ですが、あと20分削って欲しいわ。ちょっと長くないすか。
とか言って。この映画を人生のどこかのタイミングで何度か見直して、その度に評価が上がっていくような、良い歳の取り方がしたいので、長生きしよう。

【一番好きなシーン】
・冒頭の、ワルキューレの騎行が演奏されてる広場みたいなとこのシーンからして凄かったなあ。
・翌朝?のシーン。ロビーみたいなところで色んな人に矢継ぎ早に話しかけられて、ひょうきんな態度で全員の対応をするんだけど絶対「面倒くせえー」と思ってんだろうな、というマルチェロ・マストロヤンニの演技がすごく良かった。
・ベタにラスト。