yuki

晩春のyukiのレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.0
原節子のミッキーみたい(と私は思う)笑顔が、気になる序盤。
おじさんに「汚らしい」と毒舌吐くときもこの笑顔。
 
それが後半がらっと変わる。序破急。
「汚らしい」も、なんでそんなこと言うのかがわかる。

お父さんが、静かで優しくていいお父さんなんだよね。
笠智衆の淡々とした話し方に、だんだんと安心してくるというか。
 
実家暮らしから結婚する子って、こんなところあったかなとも思って見ていたけれど、もっと深読みしている人たちもいて、考察見てびっくり。壺のところとか。
 
最後のりんごをむいてうつむくシーン、そのあと夜の海。
おばさんが誰もいなくなった部屋で、くるりとまわるシーン。
 
名シーンって、本当に自然と心にひっかかるんだと思った。
 
夜の海のような、空っぽの部屋のような深い孤独、寂しさ、晩年。

あぁ、たしかに、原節子が味噌汁を運んでた頃には、嫁ぐ前は春があったなぁと思い返す。
結婚せずに、ずっと2人で暮らしていればれよかったじゃないかと、2人の気持ちを思う。
 
映画のタイトルを「花嫁はなぜ泣くのか」みたいなものにされそうになって、小津監督が怒ったらしいけど、たしかに「晩春」でないとと思った。
こんなに長く名作として尊敬を集められるのも、このタイトルでこそというかんじもする。
(一方で原節子売り出し中で、こういうタイトルで広めなければという気持ちも、いたいほどわかる)
 
小津安二郎と野田高梧は、戦後間もない1949年のこの映画に、戦後の混乱は映さず、日本文化の美しさと家族の描写に徹した。
その美学とこだわりを思う。
 
笑顔の原節子が、まだなにもない茅ヶ崎の海辺のサイクリングのシーンも、なんだか感慨深い。

原節子は「この映画の娘の性格は私としては決して好きではありません」って言ってるといるらしく、それも面白い。
yuki

yuki