8Niagara8

晩春の8Niagara8のレビュー・感想・評価

晩春(1949年製作の映画)
4.9
やはり屈指の大傑作である。
本編の緊張感とは裏腹に小津ならではのユーモアセンスが冴え渡る。

映像が語りかける途轍もないパワーが最高である。
久々に観ると笠智衆は聖人の如く柔和だし、杉村春子は結構ベタついてるしで、そこもまた面白かった。

能の場面での怒りは凄まじいものがあり、普段純真で可憐な笑顔を見せるからこそ恐ろしい。原節子こそ怒らせてはならない。
そもそも父の友人の再婚に対し不潔だと面と向かって指摘する紀子。
度々小津作品に登場する「不潔」という概念は少なからず同調する部分も自分はあるわけだが、後にこの発言を恥じるわけであり、それは結局他人の固定された価値観に過ぎないことも示唆している。
また、皮肉なことにも実父も再婚するという嘘をつき、彼女を説得しようとする。
彼女の頑固さが透けて見える一連の言動であり、叔母が旧式だと言うのも一理ある。
結婚に対してある種の執着を見せるのは当然母の存在があるのだろう。
紀子の父に対する深い愛慕の心情は決して屈折したものではなく、あまりに痛烈なだけであるとも思える。
とはいえ、母こそ居ないがエレクトラコンプレックスに似たものも感じさせる。
京都で二人で隣り合って寝床を共にするというある種タブーを挟んだあとだからこそ、紀子の心の揺れは実に素晴らしいシーンを演出する。
そんな娘に、幸せになれ、きっとなれるさ、と言う父。
このシーンを経て、紀子が嫁ぐ最後のシーン。ここでの彼女は一段と綺麗であり、秋刀魚の味と比べれば幾分と色づいたものではないか。
しかしながら、家に遂に一人になってしまった父の背中はやはり寂しげであり、悲壮感も漂う。
それでも娘の人生、幸せを思って送り出した。
8Niagara8

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