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ベニスに死すのたのネタバレレビュー・内容・結末

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ビョルン・アンドレセンは、人生を投げ出して何もかもひっくり返してもいいと思えるほど美しいね。
瞬きや呼吸をするだけであんなにも神秘的な雰囲気を出せるって、本当に唯一無二だと思う。
これはそんなビョルン・アンドレセンを素敵な音楽と一緒にゆったりと観る映画。ハッピー。

主人公のアッシェンバッハの気持ちはよく分かる。あんな美しい少年に出会ったら目なんか1秒だって離したくないし、できれば偶然を装って毎日会いたいし、微笑まれたら心臓が痛くなって立っているのもままならなくなると思う。性別とか年齢とか全部関係なくなって恋をしちゃうのも納得。
でも恋とは言いつつこの物語でアッシェンバッハがタージオと関わる事はほぼ0。目が合って微笑まれる、くらい。まあそうじゃないと困る。相手は15〜6の少年なんだから。
もしかしたら恋なんてありきたりで凡庸なものじゃなくて、もっと崇高な感情だったのかもしれないけど、とにかくアッシェンバッハがタージオに愛を持っていたのは確かのはず。でもそれが全然表に出されないのがいい。この映画の甘美で切ない雰囲気は、アッシェンバッハの忍耐によって成り立ってる。アッシェンバッハが思わずタージオに声をかけてしまっていたら、映画の世界観とタージオの神々しさは音を立てて崩れていたと思う。

最後のシーンは印象深かった。
タージオが砂浜や海に混ざり溶ける姿は胃もたれする美しさで、アッシェンバッハにとってこれ以上ない最期の景色だったと思う。
アッシェンバッハを救えるのは美と死だけだったわけで、あそこで息を引き取らなかったらこれから先一生、タージオの幻影と現実の辛さに苦しめられていたと思うから、これで良かったはず。
アッシェンバッハはあそこで死ぬのが最善だったと思いたい。

あと、アッシェンバッハとタージオの肌の瑞々しさの差が、老いと若さや2人の将来性、生と死といったものの対比を表現しているようで見ていて苦しくなった。
アッシェンバッハは化粧をしてもなお隠す事のできない老いを抱えているのに対して、タージオは泥に塗れていても輝きを失う事のない、水を弾くような透明感のある肌。なにこの差。辛い。歳取りたくない。若いって無条件で美しい。
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