けーはち

ベニスに死すのけーはちのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.3
老作曲家が美少年の虜になって死ぬBL映画。本作の同性愛描写は〝見る〟だけだが……本作の映像美を支えるビョルン・アンドレセン、ヴェネツィアの高級ホテルや海岸で妖精のように遊ぶ彼の姿は、世界一の美少年と語り草になるのも納得。とはいえ主旨は美少年鑑賞ではなく、その色香に惑ったおっさんの死相が日に日に色濃くなるのを眺める方。彼のモデルは原作者トーマス・マンの友人、作曲家マーラーで、劇中では全編に渡ってマーラーの曲がフィーチャーされる。それに対し芸術論を戦わせる若者は十二音技法による無調音楽を確立したシェーンベルクがモデル。調に囚われない未知の美へ挑む若者は古典的音楽の完璧主義に拘るマーラーを指弾し挑発する。マーラーの曲は壮大で優美にして多彩、精細、とはいえ完璧な美は人間の手で制御できず、神の造りたもうたあの美少年のように官能的で時に人を狂わせる悪魔のようなもんじゃ……と彼は美学的に打ちのめされながら納得して実に充足したように死んでいくのでした。