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ベニスに死すのよのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.8
不在の少年を常に視線の先で探すようなフラついたカメラワークが、主人公の内面で湧き上がっていく感情を透明に思わせてしまうほど純粋な好意に見せて、成就しないもどかしさをより引き立たせる。提示されるショットは主人公の眼差しと同化されてはいないんだけど、フレーム外の少年の残り香を常に漂わせるサスペンスを醸成し、満を持して少年の姿がフレームに収められたときにそのひとしおの感動を主人公と共有できる作りになっているのが実に映画的な体験だった。見たいものを見るというより、無意識に見たいものだけを追い世界の構造を歪めてしまうこの気持ち悪さはアントニオーニの『欲望』を想起させた。窃視症的でもあるし、ひとつの物事に囚われる狂気の意味でも。
劇中、少年が弾く「エリーゼのために」が頭を離れず、同じ曲の旋律を耳にしただけでパブロフの犬の如く少年の姿を求めて音を辿っていく主人公の様子にここで言いたいことは集約されているのでちょっと意識して見てみてほしい。ショットの荘厳さが格調高い感を醸してはいるが、本質は中学生のそれよりもさらに純粋な愛。
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