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ベニスに死すのcheeeezmのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.2
2020.72作目。


同性愛? これが? 恋愛をキスしたいとか一緒にいたいとかそういう欲と結び付けるなら、これは恋愛ではないと思った。美術館に飾られた絵画の美女に心奪われるような、そんな感覚。それが偶々生きた青年だっただけ。
だからこそ言葉数が少ない。相も変わらず私の耳にはイタリア語が美しく聴こえる。小難しい芸術や美についての話も、とかく絵画のように思えるのだ。

タージオとアッシェンバッハの会話はない。少しあったのは、アッシェンバッハの空想だったのではないかと、個人的には思う。
確かにタージオのような、絶対的な美を見てしまえば、芸術家としての自信は地に落ちる。海辺で水着姿で笑うタージオ、拙くエリーゼのためにを弾くタージオ、ちらりとアッシェンバッハの方に視線をやるタージオ。どれも息を飲むほど美しい。
ラストの夕日に消えていくような様は、言わずもがな。

本作品では、タージオの想いをとことん排除している。だからこそアッシェンバッハが醜く映るのだが、前から聞いていた「美少年におじさんが狂わされる映画」とは少し違うような気がした。
狂わされる、というより芸術家は元々狂っている。それを圧倒的美によって明るみに出されただけじゃないのかな、って。

とにかくタージオの造形とマーラーがよく合う。ラストシーンは周りが誰もおらず、絵画のようにタージオが映る。それが走馬灯のようですらあり、きっとアッシェンバッハはそれを胸に息絶えたのだ。

美容院のシーンは、……うーん。あれが唯一の同性愛、恋愛要素であったような気がするけど、あれのせいでよりアッシェンバッハが醜く見えたよな。
アッシェンバッハがタージオに抱いたは恋心だったのか、美への憧憬だったのか。よくわからない。
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