みおこし

炎628のみおこしのレビュー・感想・評価

炎628(1985年製作の映画)
3.8
ずっと前に鑑賞したことがあるのですが、その凄惨な内容がトラウマでなかなかレビューを書けなかった本作。ソ連の作品なのですが、今もなお名高い反戦映画の傑作として有名です。以前CS放送か何かで観て以来なので、やや記憶があいまいな部分あるのですが悪しからず…!

ナチスのアインザッツグルッペン(移動虐殺部隊)によって起こされた、ベラルーシにあるハティニ村で起きた惨劇をもとにした本作。パルチザンへの参加を決めた少年フリョーラは、母親の反対も押し切り家を飛び出すが、結局戦いには参加できず、失意の中故郷の村に戻ると、ナチスの軍勢が村を取り囲んでいた…。

当時16歳のアレクセイ・クラフチェンコがフリョーラ役に扮しているのですが、私は本作での彼の演技を超える子役の演技を見たことがありません。「俺はパルチザンに入る!」と意気揚々と飛び出した無邪気な少年は、いつしか自分のその決意がいかに多くの人を巻き込み、最悪の結果へと繋がってしまったかを悟り、絶望に打ちひしがれます。後半の彼の表情は、先ほどまでの笑顔を絶やさない少年の顔ではなく、思いがけず大人へと成長してしまった男性の顔。しかも青春映画で見られるような成長ではなく、何か望まぬものを得て無理やり遂げたような痛々しい成長。いったいどうやってあんな演技ができたのか、そしてそれを演出した監督の演出はどのように生まれたのか…。

そしてクライマックスの悲劇的なシーンは、まるで自分がそこに本当にいるかのような臨場感と、俳優陣の演技とは思えない迫真の様子に圧倒される戦慄の映像体験。戦争映画は数多くあれど、これほど痛ましく、そして腹立たしい15分間はありませんでした。どこまでもリアルな描写がきついだけでなく、実際にこの事件があったことだというのが何よりもきつい。どんなホラー映画よりも、これが”現実”ということが恐ろしい。笑いながら犯行に及ぶナチスの兵士たちの様子は同じ人間とは思えないけれど、彼らもまた狂った組織の中で任務をこなすうちに何か大切なものを失ってしまった被害者なのかもしれません。

”重い”と簡単に表現できるほどの映画ではないので、本当に覚悟して観る必要がある作品ですが、我々日本人にとってはあまりなじみのない事件だからこそ、目を背けずにこの事実を受け止めなければいけないのかなと。きっとどんな戦争映画も二度と本作ほどの衝撃とリアリティを創出できないのではないかと思うほどに、壮絶だったことがうかがえる本作の撮影の裏側も気になるところです。
ネタバレになるので伏せますが、本作のこのタイトルの「628」に隠された意味を知ったら、またエンドロールで涙が止まりませんでした。

色々な意味で、忘れられない、忘れてはいけない1本。
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