蛸

リトル・ミス・サンシャインの蛸のレビュー・感想・評価

4.3
夢=呪いに縛られた一家のロードムービー、という意味でアメリカンドリームという大きなお題目の裏にある現実を描いた映画だと思いました。
大筋は、娘をミスコンに出場させるために遠路遥々カリフォルニアに向かう一家の珍道中というところでしょうか。
「リトルミスサンシャイン」優勝を目指す娘(オリーブ)を筆頭に、家族はそれぞれ身の丈に合っていない夢を追いかけています。その様は端的に言って痛々しくもあり滑稽で、時に観客の笑いすら誘います。
当然予想されることだけれど、彼らにもそれぞれどうしようもない現実が突きつけられる瞬間がやって来ます。それでも彼らは前に進む。ポンコツ車を家族全員で押すショットはひとつのイメージとして印象的で、この映画全体を象徴しています。
一人、また一人と現実を突きつけられていく道中。そこからの最後のミスコンでのサプライズが素晴らしい。あの場面は確かに痛々しく滑稽ではありますが感動的ですらあります。あの場面でこの一家は「勝ち負け」という呪いから解放されたように思えました。
この世界はどうしようもなくくだらなくてほとんどジョークのようなものだけれど、それでも冷笑的にならずにいるということ。無常観と共にあるユーモアの存在が人間に対する暖かい目線を感じさせる一本です。世界に対する肯定感に満ちた、とても優しく美しい映画だと思いました。 そういう意味でヴォネガットの小説と似たような雰囲気のある作品でした。
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