このレビューはネタバレを含みます
トルソとは彫刻用語で四肢のない胴体だけの作品のことだという。
それを大事に心の拠り所にするヒロコ。自分の殻に籠り、胸板の厚いトルソと一緒に風呂に入り、一緒に寝て、セックスもする。
種違いの妹ミナは言葉も態度も奔放で、ヒロコはキレそうに何度もなるが、そこで、切れない。種違いの子供を孕む母も奔放な女だったのだろう。この二人にトルソは要らない。
父が死んでもヒロコは葬儀にも行かない。それは自分の父ではないから。久々に実家に戻るや母からビンタされ父の葬儀に出ないことを咎められる。でも「あったことを、なかったことにして生きるのは、結構しんどいよ」。
そのしんどさをヒロコはトルソにぶつけていたのだろう。トルソと胸を合わせているのは、心合わせなのではないか。顔も手足も要らない。自分の心の寂しさをトルソは受け止めてくれる。自分の全身で抱きしめられるトルソはちょうど良かったのだ。
バーで会った男。しかし彼はトルソのようには行かず、さっさと寝てしまう。ヒロコの心を受け止めてくれるのはトルソだけだ。
姉のものをなんでも奪う妹。このトルソが奪われなかったのは救いだった。ヒロコから次郎を奪った妹は、ひとりで田舎で子供を産む覚悟だ。妹には、トルソでなく子供が産まれてくるからトルソなど不要なのだ。