Kinaponz

エンゼル・ハートのKinaponzのレビュー・感想・評価

エンゼル・ハート(1987年製作の映画)
3.3

1987年 (昭和62年) 夏
日比谷のスカラ座で観て以来、34年ぶりの再観です。

昨年春のコロナ禍以降、
ぽつぽつ思い出したように映画を日常に取り戻して来ましたが、

そうなるずっと以前から、この作品については
折にふれて念頭に浮かんできては、

もう一度観直さなくてよいのかと
再鑑賞を促されつづけてきました。


悪夢にかぎらず、何か衝撃的で印象に残る夢を見たあとは、
目覚めてからも、夢の内容は思い出せないのに
強烈なインパクトだけは永く尾をひいて

記憶に留まりつづけます。


この『エンゼル・ハート』も当時非常な印象に残って
内容は薄れて消え去ったものの、

夢魔が宿って脳内に刻印したかの如く

早く観直さなくてよいのかと
呪の言葉を囁きつづけてきたのでした。


そしてこのたび、漸く再観の機会を得たわけですが…。

結論から云ってしまえば
至極あっさりと憑き物は落ちました。

さすがに三十数年も経つと
ちょっとやそっとのことでは動じなくなって

当時おどおどしながら映画館の座席に深々と
腰を沈めていたことを懐かしく思いだす始末。


今観てみるとミステリーとしてもサスペンスとしても
その強度はさほど強くはありません。

映画の終盤、走馬灯のように描かれる
事件のタネ明かしは現実味に欠けています。


だからといって作品そのものの強度が
弱いと云うわけでは決してありません。

ロバート・デ・ニーロのサイファーは
存在感は確かなのに、実在感の乏しさ、
浮軽を表してこの世ならぬ者を体現し

ミッキー・ロークのエンゼルは
終始悪い汗をかきつづける展開に苛まれ

悪夢そのものの渦中にあります。

つまり、観客はエンゼルの悪夢を
ともに観ていることになるわけで、

してみると、数多の事件の現実味の欠如にも納得がいくのです。


エンゼルはたとえこの悪夢から目覚めても
悪夢そのものの現実が彼を待ち構えていて

いっとき現実の世界で眠りに落ちても
現実と同じ悪夢が彼を待ち受けている。

ラストで檻のようなエレベーターに閉じ込められ
何処とも知れぬ深みへと降りていくのは

逃れることのできない地獄への降下に他ならない…。


トップ画像のようなマイケル・セレシンによるショットが
キマっていて見惚れます。

特に人物の映っていない建物のショットが秀逸。


また少し時が経ったら、観直すことになりそうです…。

と云うことは、まだ憑き物は落ちていない !!
Kinaponz

Kinaponz