Jeffrey

熱帯魚のJeffreyのレビュー・感想・評価

熱帯魚(1995年製作の映画)
4.5
「熱帯魚」

冒頭、受験戦争真っ只中の台北。ボンクラな少年、誘拐、田舎の漁村一家、報道、ヒートアップ、別世界、南国、不思議な時間、謎めいた少女との遭遇。今、少年は無事に台北に戻り高校受験を受けられるのか…本作は去年の夏に台湾映画特集がイメージフォーラムで上映しており、劇場で見逃した為、BDを購入して鑑賞したが素晴らしい台湾映画だった。チェン・ユーシュン監督が一九九五年に撮った従来の難解なイメージがある台湾ニューシネマをいとも軽やかに喜劇調に生まれ変わらせた新たな時代を告げる台湾映画で、エドワード・ヤンや候孝賢のイメージを覆している。監督はこの作品がデビュー作らしく、母国の偉人である監督たちの雰囲気を取り入れつつも、ポップで自分の個性を鮮烈に印象づけている感覚が映像から見て取れる。

本作は、冒頭から非常にパステルカラーな(赤紫)の色の基調で熱帯魚が泳ぐ映像を見せつけつつ、音ではラジオが聞こえてくる。そして一言"この世には不思議な力が働いています"と。そしてカメラは台北の街並みを真っ正面から歩いてくる学生服に身を包んだ少年リュウを映す(この時ポップミュージックが流れる)。そして、彼は歩道橋の階段を下り、バス停で止まる。背後から同じくバスを待っている女の子を見つめる。彼はふと鞄から手紙のようなものを出し彼女に近づく(彼は短パンでTシャツ姿)。

そして、二人を真っ正面から映すカメラ、続いて手紙を渡そうとする手のカット、カットが変わり学校の教室の描写。先生がリュウをたたきつける。どうやらこの時期は試験のようでピリピリと教室中が張り詰めている。この先生(女性)は首を痛めたのかギブスのようなものをはめて一生懸命生徒たちを怒っている(怠けているから)。ちなみにギブスを首につけた女性は「ラブゴーゴー」にも一瞬出てくる。


続く、リュウがゲームセンターで遊んでいる描写へ。彼はゲーム終わりに友達からタバコ2本を受け取る。ゲーセン内では少年たちを見張っていた男(漁村一家のひとりで誘拐犯)が後からやってきたもう一人の男に"ガキどもは"と聞かれ、探すも彼たちが見つからない。続く、少年は友達と道路際に座り、受験が終わったら何が欲しいと聞かれ熱帯魚の水槽が欲しいと言って、友達はタバコを吸いながら俺は女が欲しいと言う。

次に、彼は自分の部屋で物書きをする。彼は島で熱帯魚を見たいそうだ。ここでユーモアあふれる図工の様な手作り感満載な潜水艦で海の中を表現する風変わりなポップアートが写し出される。そして教室の描写に変わりまた先生に両腕を棒で叩かれ、夜の街のベンチに座り友達と一服する彼の描写が映る。そして会話をしている間に、とある男性(先ほど登場した誘拐犯の一人)がタバコを吸ってる彼らに事情聴取する。男はノートを持ち出し、学校や名前を聞き始める。

そして、その男性に友達が呼び出され、とある場所へ連れていかれる。数分後に彼は戻ってきて"ケツを触られた"とリュウに伝える。カットは変わりクラスの描写へ。前に出て黒板に答えを書こうとしているリュウ。だが、書けずにまた先生に両腕を棒で叩かれる。そして夜の屋台で、ポテトを食べに来たリュウが昨日の夜に注意された男性と遭遇する(男性は気づかず)。そして学校の保護者面談的な場面へと変わる。

そこにはリュウの父親の姿が映り込む。来月の試験ではみんなが不合格になるでしょうと半ば脅しのように先生は保護者に伝える。続いて、リュウの自宅の食卓の描写に変わり、父親が"高校に行く気はあるのか?"と彼を叱る。少年のうつろな表情のクローズアップ、その場にいる母親にも父親は"息子の成績が心配じゃないのか"と八つ当たりをし始める。

そして、カメラは少年の部屋の机に座る彼を映す。彼は緑島の海底潜水艦ツアーの新聞記事を眺めている。そして朝方のバス停の描写に変わり、少年はまた髪の毛の短い冒頭に手紙を渡そうとした少女に近づく。だが、カメラの前にバスが到着してしまい、渡したのかは渡せなかったのかと言う映像がわからない。続いて、学校の先生のショットに変わる。トイレでは生徒2人がタバコを吸っている。

そして自宅でラーメンを食べている最中に、テレビニュースで流れてきたワン君の誘拐事件の話を聞く。リュウは母親と父親にその男の子を誘拐した犯人を知っていると話すも、父親は成績が悪い息子にまだ怒っている。カメラは夜のとある怪しげな街の路地を映す。そこにはリュウの姿があり、ウェイリー(友達)の名前を叫ぶ。そうすると逃げろと言う声とともに友達が走り、その彼を追ってくる大人が"くそがき"と言い走ってくる。リュウはコンビニ前に立ち寄り、その前に止めてあったトラックの荷台になぜだか入り込む。そうすると誘拐された男の子と男性がいて、リュウはドンキなもので殴られる。カメラは冒頭の美しい熱帯魚の水槽の描写へ変わる。

そう、ここで少年リュウは初めて悪い奴らに誘拐されたのである。手足を縛られ口にはガムテープ、悪劣が汚い部屋に閉じ込められる。二人組の犯人は彼のガムテープを外し、父親に電話しろと言い誘拐されたと彼は伝える。犯人は身代金を用意しろと伝える。そして電話は切られ、犯人は五〇〇万の身代金を払ってもらえる価値がある少年か、と彼の顔を見て言う。この犯人二人こそ紛れもなく、ゲーセンで遊んでいた少年たちを監視していた二人である。そして、タバコを吸っていた彼らを怒って色々と情報を聞き集めていたのは家庭環境を調べていたと言うことがここでわかる。


そして少年がテレビニュースでワン君の誘拐犯が誰か知っていると親に言ったのは、彼が夜の屋台でポテトを食べる時に、その犯人の一人を見かけた際に一緒にいた(ワン君が)からだ。そして犯人は少年二人を汚らしいバスタブに放り投げ、監禁する。そして犯人の一人が子供たちにご飯を食べさせる。そして犯人は彼らを段ボールに詰め込みトラックに入れて、ドライブをする。途中でアイスを食べさせたり、おしっこがしたくなり海岸沿いで達しょんべんさせたりする(この際に台湾のポップミュージックである伍佰の音楽が流れる)。

そして犯人の一人の家族の家に到着する。どうやらこのドライブは犯人の家に行くまでだったようだ。その家は水で床がびしょびしょである。そしてまた夜誘拐された少年らを優しく介護(ご飯を食べさせたり)する。そこでワン君が逃げないからご飯ぐらい自分で食べさせてほしいと懇願し、犯人は承知して彼らの拘束を解く。ここで彼らは会話し始める。

続いて、夜の屋台の描写に変わり、犯人を映し出す。ここで賭博を楽しんでいる友人らしき男に話をかけて話があると言う。二人は移動して話をする。 そして占い師のような風貌のお婆さんに犯人は会う(蛇女の姿をしている)。そして彼らは誘拐した子供二人をそのおばさんや身内に教えてみせる。みんなで食事を囲み、ご飯を食べ始める。このおばさんたちは犯人のお母さんで家族である。そこでニュースでは誘拐された少年の顔写真が映る。ここで蛇女のおばさんが大声で自分の話をしてる言葉を聞いてないかのように感じて、大声で話した時に息子の犯人の男性がこの子(リュウ)は耳が少し悪いんだと教える。そしてその日は寝床につく。

ここでワン君の悲しい過去が暴かれる。ちなみにリュウは耳に補聴器らしきものをつけている。

続いて、中学校の卒業式の描写に変わり、仰げば尊しが広東語で流れて皆が無事に祈ってリュウの生還を黙祷する。そして、テレビニュースでは両親が息子の無事を願っている映像が流れる。朝のニュースを聞いた犯人家族が、リュウのところに行き、"ごめんね、誘拐してしまって。入試試験だとは知らなかった"とここで一生懸命勉強して素晴らしい大人になってねと犯人が言う。地理や歴史の教科書などを大量に段ボールに詰めて持ってくる。そして蛇女のおばさんはお金さえ入れば今すぐにでも返すから、もう少しの辛抱だよと話す。この場面を見ていると笑える。

そして少年は机に向かって勉強をさせてもらえることになる。そしてこの誘拐家族の姉貴に恋をしてしまう少年が、手紙を書く。それを姉貴の弟が小馬鹿にして意地悪する。そして気分転換にその誘拐犯の家族たちと海に少年は行き、魚を色々と生で見てくる。そしてお姉さんは熱帯魚を一匹瓶の中に入れて飼うようになる。この後も様々な展開になるが、ネタバレになってしまうので、ここでは言及はやめとく。

さて、物語は台北で暮らす夢見がちな中学生リュウは、受験を控えたある日、誘拐事件に遭遇し被害者の少年と一緒に連れ去られてしまう。主犯格の男は2人を手下の優しい男アケンに預けて身代金を受け取りに行くが、その途中で交通事故に遭い亡くなる…困ったアケンは、自分の家族が暮らす南部の漁村へ彼らを連れて行くことにする。その頃、台北では誘拐報道がされ始める…と簡単に説明するとこんな感じで、誘拐犯に巻き込まれた少年の夏休みを青春と恋愛を入り交じえて、ユーモアに描き出した傑作である。




いやーこの映画はかなり面白い。と言うのもとても風変わりなアートビジュアルが可愛らしくてたまらない。日本で言うフジテレビとかで毎年やってるあの香取慎吾が司会してる名前ちょっと忘れちゃったけど、あの自分たちで作って披露する20点満点を軸に評価されるあの番組のようなクオリティーの工作をしている。

それと、少年二人が監禁されているときに、メガネがずれているから直してくれとリュウにお願いする際に、両手足が縛られているため顔でメガネを直そうとした時ににワン君がキスするなよと言う件も可愛らしくて面白い。

ほんと一瞬だが、画面のフレーム内に扉の隙間から外の風景を写し込むシーンは候孝賢の「童年往事 時の流れ」を彷仏とさせる演出である。それに誘拐犯の家族と海に行くシーンでは、なんだかすごい自分のノスタルジックな部分が出てきて、悲しくなってしまう。音楽も優しいメロディーで流れて、滅びゆく、消えゆく青春の一瞬を映し出しているように見える。それに海で砂の山を作って、それをまたいでうんちのように見せる砂山、家族じゃないのに家族のよう見れる戯れが制作側の優しさを肌で感じれる。

四人が揃ってカメラ目線で拍手する浜辺のシーンはすごく印象的に残るし、リュウを演じたリン・ジャーホンのニキビだらけの可愛らしい笑顔も素敵である。それにワンに聞かせてあげた物語なども優しさに溢れている。あの終盤の日の出が出るシーンの壮大な音楽とヘリコプターのショットは美しい。

それにしても、誘拐犯の家族全員が金が入ったらお前たちを返すから暴力などはしないから安心しなよーなんて言う場面とか笑っちゃうよね。ドンダケ極悪非道な連中なんだって言う。でも見ていると滑稽で心優しそうには感じる。一緒にテレビニュースを見たりして、実際にテレビでリュウの顔を見て、実物のほうがイケメンねと呑気な事まで言う。

それとテレビニュースでリュウの両親が、この子は小さい頃から体が弱いのでピータンをたらふく食べさしてあげてくださいと母親は泣きながら伝えて、父親のほうはあと10日で入試試験が始まるから何とか間に合うように返して欲しいと言い、望みを何でも叶えるからと言うが、正直どうでもいいような事情で息子を返して欲しいと言う…この能天気さが爆笑してしまう。

ほら、韓国が受験戦争の時がすごいっていうのは度々ニュースになっているからよく知っているのだが、この作品を見る限り台湾も入試試験を受けられないと、この子に将来は果たしてあるのだろうか…というのがニュースを通じて大々的に宣伝されているのを見てしまうと、台湾て言う国も学業が身に付かないとどこも就職できないような厳しい国なのかもしれないと思った。

無論日本でもそうだとは思うが。


この映画の画期的なところに、思いっきり青春映画は描いてる中にささやかな夏のトラブルと言葉をか交さない男女の恋愛までも映しているところだ。それも熱帯魚一匹を通してポエム的に、夢見る人全員に捧げられた青春映画だ。ラストの熱帯魚が高層ビルの間を飛ぶシーンは少年がずっと話していた物語に帰結するのであろう…。この作品は年齢問わず、老若男女みんなが楽しめる映画に仕立てられている。

今から25年以上も前の作品だが、古き良き映画とも感じれるし、次世代の映画とも感じ取れる。本当に居心地の良い不思議な映画であった。

あぁ、傑作だった。
Jeffrey

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