清水宏監督のほのぼの映画。
まだそんなに観ていないけれどロメールの避暑地での出来事に似ていて、温泉宿に長逗留する人びとの交流が淡々と描かれている。くすっとした笑いや、噛み合わない会話とか、聞くともなく隣の部屋から聞こえてくるみたいで、湯治場や温泉宿で退屈して畳でごろごろしながら観ているみたいだった。
井伏鱒二の小説が原作で、会話の中にハッとする表現が時々出てくる。団体客に文句を言う物書きが井伏鱒二のよう。
湯船に落としたかんざしで笠智衆が足を怪我してしまい、帰宅していた田中絹代が再び温泉宿にやって来て、長逗留となる。
「情緒が足に刺さった」とかんざしの持ち主がわからなかったとき、あれこれ楽しい想像をしていた笠智衆。
傷が癒えるようリハビリを支えるうちに、なんとなく笠智衆が気になっていく田中絹代。周りは田中絹代と笠智衆がうまく行けばとなんとなく思っているが、女心のわからない笠智衆。
「情緒的イリュージョン」と物書きは言う。
傷ついていた女が男の傷を癒した、ひと夏の淡い恋。