ヒュー

フルメタル・ジャケットのヒューのレビュー・感想・評価

フルメタル・ジャケット(1987年製作の映画)
4.3
鬼才キューブリックが過酷な訓練と地獄と化した戦場で壊れていく人間の理性を描く。

これはクソおもしれぇ!前半と後半で内容がガラッと変わるから戦争映画では毎度眠くなってしまう私でも全く飽きなかったです。
前半は狂気に満ちた訓練所。兵士たちをこれでもかと罵倒しまくって理性を崩壊させ殺人マシーンに仕立て上げるのがとにかくクレイジー。鬼教官がの怒涛の罵声や声を合わせて走ってる走ってるシーンとか中々ギャグセンが高めで面白い。やれクソだやれマ○コだ親と一緒じゃなくて良かったですよ(笑)。映画史上最高の罵倒と言っても過言では無いかもしれません。ちなみにキューブリックは字幕翻訳もチェックする人でなっちが罵声を意訳したのを気に入らず字幕担当が変わったらしいですね。理性が崩壊することで芽生えてしまう残虐性、ただ殺すことに特化するよう訓練されて後々に繋がっていくことになる。更にはお得意のシンメトリー、独特のカメラワークも炸裂しておりました。大広間でのシーンも数多くありますが、シンプルながらも個性が存分に出されていたと思います。
「おれは厳しいが公平だ、人種差別は許さん、黒豚・ユダ豚・イタ豚をおれは見下さん、全て平等に価値がない!!」

後半はガラッと変わってベトナムの戦場。他のベトナム戦争映画を描いた映画とは異なりジャングルのシーンはほぼなく、派手さでも昨今の映画にも劣るかもしれないが戦場でも一貫して戦いよりもその奥にある人間を描いているため並々でない空気感と全編英国ロケながらもキューブリックの拘った芸術性によりリアリティは一級品。ただストーリー自体はどこか現実離れしている面もあるがそれがまた監督の狙いでしょう。特に平和と「BORN TO KILL(生来必殺)」の二面性の両立は不可能と暗示しているかのような展開。すべてが凝っている。

ブラックジョーク場の空気に全く合わない陽気なBGMを次々とぶっこんでくるしや風刺的なメッセージも全編通してかなり強かったです。奥が深すぎるし全てにおいて何かしら意味があるように感じられました。戦闘よりも訓練の方が観てて面白い作品って中々珍しいけど監督が特に描きたかったのはやはりほほえみデブと女性兵士の下りなのかなと。

殺しを終えると資本主義の象徴であるミッキーマウスの歌を皆で子供のように歌うのは純粋無垢な彼らがクソッタレの世界で懸命に生きているということ。しかしそんな彼らはもし普通の社会に戻ったら適応できるのだろうか。

戦争のリアルさよりも戦場における兵士たち、人間の本質を貫く異常な117分間。戦争映画好きな人は勿論、そうでない人にもぜひ鑑賞していただきたい。
ヒュー

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