みずか

見知らぬ乗客のみずかのレビュー・感想・評価

見知らぬ乗客(1951年製作の映画)
4.2
ヒッチコックの映画では、しばしば祝祭の場や娯楽の場で、事件が起こる。多くの人々が楽しみ、笑っている空間に悪意が入り込むことで、その怖さが浮かび上がるのだ。この映画の最初の犯行シーンとラストが遊園地を舞台としているのは、その典型的な例で、とくに犯行シーンでは効果を上げている。賑やかな音楽と人々の笑いの中、被害者を狙うロバート・ウォーカーの姿は、禍々しくさえある。サイコパスの殺人者を演じるロバート・ウォーカーの演技は素晴らしく、ヒッチ映画で有数の悪人ぶりだ。一方、交換殺人の提案に曖昧な回答をしたがゆえに、ウォーカーに付きまとわれるファーリー・グレンジャーは、「意図せざる共犯者」の役割におかれることになるが、彼の切迫感や追い込まれ方がもう一つなのがこの映画の残念なところかもしれない。演技というより、物語の問題だろう。絶対的な悪には曖昧な態度は許されず、戦う(殺す)しかないという、遠くにナチスを想起させるヒッチコック的なテーマがこの映画でも描かれているが、グレンジャーは、それを担うにはやや役不足な感がある。
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