◎総集編的で散漫な作劇 終盤の滝沢の演技は圧巻
1953年 近代映画協会&劇団民藝 新東宝配給
モノクロ 142分 スタンダード *ホワイトノイズ
高校時代の自慢の一つは、島崎藤村の全作品を読破したことで、なかでも彼の先祖を主人公とした長編『夜明け前』の印象は忘れがたい。
本作は開幕こそ藤村の名文を宇野重吉の語りで聴かせ、期待を抱かせる。
【以下ネタバレ注意⚠️】
しかし、そもそも木曽の馬籠宿という極小の地点を舞台とした歴史物という原作の性格に制約されて、話が細切れの断片を繋いだ総集編のようになって、全く面白くならない。
二時間強の尺に収めるためには、原作全体を描こうとするのではなく、どこか数年間程度、特定のエピソードに的を絞って作劇するべきではなかったか。
ただ、最晩年、地方の平田派国学者の一人として御一新に期待を寄せながら、その夢を現実によって裏切られ、狂気の人となる青山半蔵を演じた滝沢修の演技だけは圧巻である。
とくに、寺に放火したのは俺だと、狂った半蔵が蓮の葉を頭に乗せて語る演技の秀逸さはまさに歴史に残る名演だ。
ただ、その晩年の半蔵に随伴し、結婚直前に自殺をはかる娘お粂(乙羽信子)のシークエンスは、盛りがついた猫の奇声に耳を塞ぐ演技で、性交への忌避を暗示させるなどの工夫はあるが、人物造形が中途半端で作劇に活かされているとは言いがたい。
どの登場人物も、駆け足な構成、編集のせいで中途半端にしか描かれないが、そのなかで半蔵の母おまん(細川ちか子)のみは、半蔵以上に長く登場し続けたこともあり、細川の演技も存在感があって、本作いちばんの殊勲賞であった。
**新東宝配給作品であるせいか、ネットに公開されたレビューは異常に少なく、おまけにallcinemaやmoviewalker などは「伊福部昭音楽」など何故か誤情報を掲載している。
《参考》
*1
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/夜明け前
*2 新東宝データベース 1947-1962
nipponeiga.com/shintoho/film/1953/19531013.php
《上映館公式ページ》
京都文化博物館
映画と小説の密な関係 – 文芸映画特集
2025.1.4(土) 〜 2.24(月・祝)
会場: 3階 フィルムシアター
www.bunpaku.or.jp/exhi_film_post/20250104-0224/