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男装のshatoshanのレビュー・感想・評価

男装(1935年製作の映画)
5.0
キャサリン・ヘップバーンが演じるシルヴィア・スカーレットと魅力的なキャラクター達の珍道中、邂逅、そして追跡劇。

キャサリン・ヘップバーンとケイリー・グラントは1938年「素晴らしき休日」、「赤ちゃん教育」、1940年「フィラデルフィア物語」の作品で共演するなか、本作が初共演の作品。
1935年、「或る夜の出来事」の翌年の作品なのでスクリューボール・コメディとしては最初期のものとなる。

プロットに脈絡は無く、それを理由に本作はキューカー作品の中で駄作扱いされることが多い。(これは同監督の「フィラデルフィア物語」の評価とも共通するかもしれない)
実際、シルヴィアが男装を明かす前と後、そして追跡劇が始まる前と後では全く別の映画と言っていいほど展開は跳躍的だ。
一方、この時代に全盛を迎えるスクリューボール・コメディ作品群はその制約や当時の流行(=時代の要請)から展開が単調になりがちで、ともすれば作品を体験するごとにその予定調和的なストーリーの中で演出の巧緻を愛でるという、ある種倒錯的というか批評家的な内向けのツマンネー観賞に陥ってしまいがちである。
その中で本作はその脈絡のなさ、言い換えれば脱文脈的な予測不可能さによって視聴者は否応なくハプニング的に、キャサリン・ヘップバーンの立ち回り、その雄弁な目と口元の所作、見事な台詞回しと舞台使いを新鮮さを持って体験することになる。
そしてその跳び回る展開の最後にシルヴィアが覚悟ある解放を叫んでフェーンと抱き合い、それを車内から見つめるモンクリーを映して終幕する、名演をエモさで締めるこの説得力、映画体験として5億点(!!!!!)以上の価値がある。
まさにこういう映画に出会うために俺は映画を見ている
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