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刑事マルティン・ベックのもとまちのレビュー・感想・評価

刑事マルティン・ベック(1976年製作の映画)
3.8
のっけから繰り広げられる惨殺シーンに震え上がる。黒手袋を嵌め、銃剣を握りしめる謎の男。病院の白い壁と冷たい静寂。カーテンの闇からこちらを覗く不気味な瞳。そして次の瞬間、顔面に突き立てられる刃!リノリウムに飛び散る大量の血飛沫!まるでジャーロ映画かと見紛うほどのスリリングな殺人描写(殺されるのはお爺さんだけど)がお見事。その後に続くのは、疲れ切ったオッサン刑事たちによる超地道な捜査パート。寒々としたスウェーデンの風景が広がる中、事件に関わる人物を一人一人訪ね歩き、面倒くさい電話のやり取りを繰り返し、合間にちょっぴりコーヒーブレイクを挟み、着実に事件の真相へと近づいていく......のかと思いきや、突如流れをぶった斬るように展開されるマシンガン乱射! テキサスタワー乱射事件を連想させる、屋根の上に立て籠もった犯人と、精鋭の警察隊による、大勢の市民を巻き込んだ一大パニックへと物語は突入する。ヘリコプターが市街地へと墜落するシーンの生々しさは衝撃的。あんな危険な撮影をどうやって成し遂げたんだろう。ところが、緊張感溢れるドラマの中で、不意に惚けたようなカットが挟まれたりもする。クッキーを食べる刑事、角砂糖をコーヒーに溶かす犯人、窓からこちらを見るおばさん.....。当時から北欧映画ってこういう変なセンス磨かれてたんやなー、と。アンチ警察モノな終盤の展開にも思わず拍子抜け。床の格子を咥え込むマルティン・ベック刑事の情けなさよ。あの驚くほど呆気ない幕切れを含め、とにかくヘンテコなポリスアクション映画だった。
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