Jeffrey

袋小路のJeffreyのレビュー・感想・評価

袋小路(1965年製作の映画)
3.5
「袋小路」

冒頭、遥か向こうの一本道。訳ありの男2人が車を運転し後ろから押している。遮断された古城で悠々自適な生活をする男女、対岸の青年との浮気、来訪、鶏、ある旧知の御一行、ギャング、海辺、殺人。今、不条理な空気感漂う中で事件が起きる…本作はロマン・ポランスキーが、1966年にイギリスで監督、脚本を務め、ドナルド・プレザンとドヌーヴの姉であるフランソワーズ・ドルレアックを主演に迎えたスリラー映画で、彼の長編3作目である。この度BDにて再鑑賞したが傑作。本作はベルリン国際映画祭の最高賞金熊賞見事に受賞した映画である。兼ねてからポランスキーの作品と言うのは水に代表するロケ地が多く使われている。本作もそうであり、イギリス北東にあるホーリー島を舞台にしている。その孤島にそびえ立つ古城は11世紀に築城され、文豪ウォルター・スコットがそこで"ロブ・ロイ"を執筆したと言う。

この作品のシナリオは、どうやらポランスキーとジェラール・ブラッシュによって「反撥」より前に描かれていたものらしい。パリで映画を撮るあてもなく滞在していた2人は、毎日のようにカルチェラタンの名画座で古いアメリカ映画を見て過ごしていたそうで、裕福なイギリス人と魅力的なフランス人の新妻が、逃走中のギャングに囚われると言う物語の骨子はジョン・ヒューストン監督の「キー・ラーゴ」など、2人がこの時期にパリで見ていた犯罪がからヒントを得ているそうだ。そのことによって、ポランスキーはハリウッド映画「チャイナタウン」にヒューストンを役者として起用する。ちなみにこの「チャイナタウン」に出演しているフェイ・ダナウェイの壮大な死にぶりはやばい。さて物語を説明していきたいと思う。

さて、物語は外界から遮断された古城で悠々自適な生活を送るジョージとその若い妻テレサ。しかしテレサはすっかりジョージに愛想をつかしており、対岸に暮らす青年と浮気をしている。ある日、2人の住む古城に何やら訳ありの2人組の男達がやってくる。この男達の来訪によって平穏な生活が崩壊していく…と簡単に説明するとこんな感じでポランスキーの長編第3作目にあたり、見事なコメディ・スリラーを作り、前作に続く英語作品である。不気味なユーモアを交えながら歪んだ精神を見事に映像化した異色作で、人間心理を見事に活写した一本だ。相変わらず映画全体を覆うのは不条理劇の空気で、古城を支配する無数の小動物(鶏)があちこちに出てきて賑やかな映像が作られる。また道路には小さなカニがいたり、電話線に引っかかったタコだったり、水没していく自動車、生意気な悪がきなど様々のイメージがこの作品にも現れる。彼の短編映画の「タンスと2人の男」を先日見たばかりだから一瞬頭によぎる。

いゃ〜、冒頭からへんてこな訳ありの2人組が写し出されて、風景的な草むらのロングショットが写し出される場面はどこかしらドライヤー作品の「奇跡」の外撮影を思い出してしまう。ドナルド・プレザンが浅瀬をダッシュするシーンがなんとも面白い。本作の夫は工場経営主であったが引退し、財産を叩いてこの城を購入したらしいのだが、なぜこんな辺鄙なところに城を購入して住んでいるのか、隠居するにはもの寂しいところであるが、かえって良いのかもしれない。フランス人の若妻テレサとは結婚したばかりであり、どうやら昔に嫁がいるような暗示があり、離婚しているようだ。そんなこんなで、このお城にやってくるのは旧知の夫婦の一行とギャングである。なんとも騒がしくなり、妻をモデルに絵を書いていた夫のアホさ加減が露呈する。そんでどうやらこの作品はサミュエル・ベケット演劇から構成を着想しているそうだ。それにしても今回の悪役に出てくる拳銃を持った男役のライオネル・スタンダーの汗臭さはたまらない。まさに悪役にぴったしの役者だ。それにしてもテレサを演じたフランソワーズ・ドルレアックは佇まいがボーイッシュかつスタイリッシュでかっこいいのでとても好きな女優だったのだが、25歳の若さと言うのに、交通事故でこの作品の翌年に亡くなっているのだ。本当に残念でならない。ちなみに翌年にはスコリモフスキの「出発」が同じくベルリンの金熊賞に輝いている。
Jeffrey

Jeffrey