櫻イミト

マザー、サンの櫻イミトのレビュー・感想・評価

マザー、サン(1997年製作の映画)
4.0
昭和天皇をモデルに「太陽」(2005)を制作し話題になったアレクサンドル・ソクーロフ監督の代表作。原題は「MOTHER AND SON(母と息子)」。邦題もこの方がわかりやすくて良いと思う。森の中で死を待つ母親とそれを看取る息子、二人の最後の数時間の散歩とコミュニケーションを描く。

滝本誠が著書「映画の乳首 絵画の腓」の中で、ソクーロフ監督の師にあたるタルコフスキー監督と、廃墟画が有名な19世紀ドイツ・ロマン派画家カスパ-・ダヴィッド・フリードリヒとの類似を指摘していた。タルコフスキーは”死”を「晴れやかな解放」ととらえ、フリードリヒは「人はしばしば死に身を委ねなければならない、行く末を永遠に生きるために」と語っている。

本作はソクーロフ監督曰く「フリードリヒの『海辺の修道士』をモチーフに制作した」とのこと。本当にその通りで、ロケーションも構図も色味も歪んだ映像処理も、全編に渡ってフリードリヒの絵画のような画面が続く。そしてシンプル極まりないプロットは先述のフリードリヒの言葉を映画化したものと言える。

余計な要素がないので、ソクーロフ監督の幻想絵画的映像と死に向き合う詩的イメージを存分に味わうことができた。
櫻イミト

櫻イミト