ゆきの

仕立て屋の恋のゆきののレビュー・感想・評価

仕立て屋の恋(1989年製作の映画)
3.8
『髪結いの亭主』が香り立つ作品なら、こちらは絵画のような官能的な作品。
窓枠、その中で動く女性、その向かいで窓から覗く男、ブラームスのピアノ四重奏…

主人公となるイールは人を避けて生きている。周りの住人からはあからさまに嫌がらせを受けたり、避けられている。
(なぜかは明らかにされないが、おそらく人種的なものか過去に性犯罪歴があったからだろう)
そんな彼の日課は向かいのアパートの女の子を覗くこと。
ある日、覗かれていることを知った彼女アリスはイールに近づく。というお話。


同時に近場で殺人事件が起き、イールに疑いを持つ刑事、犯人である恋人を庇うアリス、全てを知るイール、という相関図も出来上がるのだが、
メインはあくまでアリスとイール。


彼がアリスに対して淡い恋心を抱いて覗き、初めは「窓枠の中の女」でいてほしいという欲求から、次第に接触をし触れてみたいという欲求、ちゃんとアリス自身に対しての欲求に変化していく所にとても切なさを感じてしまう。
人に対して愛を持てなかった彼が、唯一彼女に対して愛を持ち、そして犠牲となる。
彼女のしたたかさも何もかも全てを知っているイールにとって、ラストの彼女の行為も全て分かりきっていた事なのだろう。

「笑うだろうが、君を恨んだりしない。死ぬほど切ないだけだ。」と
彼女の匂いに似た香水をつけたハンカチを握りしめ、イールは走り出す。
その時彼女はなにを感じたのだろうか。

そして覗かれていた事を知った瞬間は恐怖の表情を浮かべたアリスだったが
次第に彼を挑発するようにセーターを脱いだり、見せつけるように恋人と愛を交わす。彼女もまたイールの視線から生まれる官能的な本能には逆らえない。
変態って言ってしまえばそれまでだけれど、その一言では言い表せられない人間の不思議な感情だとも思う。
そんな事を思いながら、私たちもイールの心の中を覗いているのだろう。まる。