レナ

エレニの旅のレナのレビュー・感想・評価

エレニの旅(2004年製作の映画)
5.0
孤児・難民としてのエレニが、じいさんとの結婚を拒否して恋人であるその息子と駆け落ちし、密かに出産した彼との子供もそのせいで隠れて会うことしかできず、やっと家族一緒になれたと思ったら故郷の街が浸水、そのうちに世界大戦、内戦によって再び離散が訪れ、更なる悲劇がエレニを襲う…。

なんだこれ、悲惨すぎる…。上記を書いていて引いた。
悲惨すぎてこれを好きとただ言うには気が引けるけど、それほどにも美しい悲劇だったのだ。

『アンダーグラウンド』や『さらば、わが愛』等を観た時の感覚と似ていて、時代に翻弄されるエレニを描くことでギリシャの叙事詩的な作品になっている。そして長回しで映される数々の美しく象徴的な場面によって、また徹底的に悲劇であることによって、神話的でさえある。
水の上を彷徨う場面が繰り返され、どこに行っても難民でありどこにも行けないエレニの宿命が示される。その海や河のはじまりが涙だったなんて、それだけで完璧な映画世界だと感銘してしまった。

音楽という希望だけが存在する。夫はアコーディオン奏者で、アメリカという希望にも辿り着くことができたし、また終始不幸なエレニの物語で楽しげだったのが音楽家の溜まり場のシーンと組合の宴会のシーンだった。歌という民族の文化、他者から奪われないものを希望として選んだのもすごく分かるなと思った。

そもそも3時間近くと長いし、ギリシャの歴史を知らない為に映画内で起きたことを理解できなかったり、おっさん達の顔の識別が難しかったりと、観るのが辛くなかった訳ではない。が、完全に分からなくても静かな波に乗みこまれて、気付いたらエンドロールを迎えた。

しかし、こんな悲劇なのに3部作(3部目が監督の死によって幻になってしまったのは大変に残念だ…)って、どうなってるんだ…。エレニが気の毒すぎて観るのが怖いけど、必ず観る。
レナ

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