えいがドゥロヴァウ

人生はビギナーズのえいがドゥロヴァウのレビュー・感想・評価

人生はビギナーズ(2010年製作の映画)
4.0
マイク・ミルズ監督作『20センチュリー・ウーマン』公開につき
過去のレビューを再掲載

母の死後、自分の残りの人生を正直に生きるべく、75歳にしてゲイであることをカミングアウトした父ハル
それまでは厳格で無口だった父がファッションを変え、積極的にゲイのコミュニティーと関わり、恋人を見つけて人生を謳歌する一方、もともと内気で臆病な性格のオリヴァーは戸惑いを隠せない
そして、ハルはガンを患っていた
快調に向かっていると仲間や恋人にまで嘘をつきながらも次第に衰弱していく父を通じて、オリヴァーは父のこと、父と母の関係、今まで知ることのなかった真実を知っていく
ハルが息を引き取って3カ月、未だに失意の中にいるオリヴァーは友人の誘いで仮装パーティーに連れ出され、そこで風変わりな女性アナと出会う
彼女はオリヴァーの瞳の中に宿る悲しみを見抜き、オリヴァーは初恋のようにアナに惚れ込んでいく
しかし、幼少期から父と母の関係に冷めたものを感じていた彼は、いつも自分から身を引いてしまい恋愛が長続きしない体質だった
彼はそのトラウマにも似た自身の殻を破り、アナと添い遂げることができるのか?

劇中に使われる音楽は味わい深いオールドミュージックばかりで、それはハルが結婚した1955年、あるいはゲイであることを自覚した1938年という時代へのオマージュのように感じられた
特定のキャラクターに対する過剰ともいえる思いを感じて買ったパンフレットを読むと、ハルという人物は監督自身の父親の姿だった
実際に母の死後にゲイをカミングアウトした父
ゲイであることが病気だとされていた時代を生きた父
「私が治してあげる」と言った妻に、生涯の愛を誓った
監督はごく個人的な自らの家族の物語を、自身の分身であるオリヴァーと架空のキャラクターであるアナの恋愛というケースを用いて、自らの性質と向き合い負い目から脱却することの大切さという普遍的な命題に昇華させた

ハルの忘れ形見であるラッセル・テリアのアーサー
オリヴァーにピッタリとついていき、たまにドキリとさせる言葉を(字幕で)つぶやく姿が愛らしい
そしてオリヴァーの中に確実に生きる、父への想いや母との思い出
素朴でありながら遊び心が詰まっていて、上映5分でツボにカッチリとはまり、心に残るとても特別な作品になった