長野県大鹿村を舞台に、300年以上も続く大鹿歌舞伎の公演5日前から起きる様々なトラブルを描いた群像劇コメディ。
ある日、駆け落ちした妻と幼馴染が村に帰ってきて、夫に「彼女はアルツハイマーを患っているみたいだから君に返すよ」という無茶苦茶な話題から始まるのだが、そこに性同一性障害に悩むアルバイトや、郵便局員、村役場の職員、農家、バス運転手など、小さな村ゆえに大勢を巻き込んでいき、大騒動に発展していく。もうこれが馬鹿馬鹿しくてめちゃくちゃ面白い。
特に何か大きなことが起きるわけではないのだけど、村のいつもの日常と非日常が交互に切り取られていく感覚が心地よくなっていく。また登場人物たちにも少しずつ愛着が湧いていき、村の人たち、いや、村そのものを愛おしく思えてしまう魔法にかかってしまう。
また主演の原田芳雄は本作の公開から3日後の7月19日に亡くなったため、本作が遺作となったことでも知られる。悔しくも原田の訃報が伝えられた19日から動員が一気に増え、翌月には興行収入1億円を突破した。
原田はその年の日本アカデミー賞主演男優賞も受賞し、故人としては『午後の遺言状』の乙羽信子以来2人目の記録となった。乙羽は助演女優賞での受賞だったので、主演男優賞として史上初のことだった。
原田芳雄、本作が最後になるかもしれないって分かってたのかな…ってくらい魂のこもった演技をしていて、基本的にはコメディなのに妙に感動してしまった。これは故人じゃなかったとしても、主演男優賞を獲って当然の演技だった。すごく良かった。