母の愛は海よりも深いと言う、ならばその愛を見つけて来なさい、と言うのがあのラストシーンなのか。ジャック・マイヨール自身が最後は水中では無く地面より少しだけ上に位置する場所で命を絶ってしまったと言うのはなんとも皮肉だが、光も届かず、音も聞こえぬ海中にこそ、彼の安らぎがあったのだとすれば仕方がない。人よりもイルカに関心を持ち、心を通わせたと言うのも、自分の中にある「無垢」なる部分が共鳴した為だろう。心を奪われ、身を捧げ、命すら投げ出した先に人魚の微笑みがあるならば、それとて彼にしてみれば本望でしかないはずだ。理想の海を漂う男と、現実の陸に地を付け生きたいと願う女、真逆であるからこそ惹かれ合い、そして真逆であるからこそ離れなければならない。そんな男の我儘を彼女は許さなければならない、それが人間を超えた存在を愛してしまった運命なのだから。海の底に永遠はあっただろうか、どうしようもないと思ってしまうが、そんなどうしようもなさを少しだけ羨ましいと思ってしまうし、分かる気もするのだからどうしようもない、どうしようもないと笑ってくれれば有難い。
