No.89[日常生活に潜む悪夢とアメリカンドリームの終焉] 80点
サイレント期にスラップスティックが主流だったのが当然であるとすればトーキーに突入して"言葉遊び"が主流になるのは当然であると言える。W.C.フィールズはそんな時期に活躍したコメディ俳優であるので必然的に"言葉遊び"が含まれる。しかし、"ふとんがふっとんだ"の面白さを外国人に伝えるのが困難であるのと同様にアメリカンジョークの両義性から来る面白さや聞き間違えのジョークを沢山並べられても外国人が外国人として楽しむのは困難である。そして、その面白さを伝えようとして張り切りすぎた町山氏が「テッド」で多重事故を起こしたわけだ。こうして外国産コメディの苦手な人間がここに誕生した。
てな感じでビビりまくってフィールズの作品は後回しにしていたのだが、想像以上に視覚的なギャグが多くて嬉しかった(盲人ギャグは抜きにして)。冒頭の髭剃りのやつとかありがちだけど笑っちゃったし、ハンモックのシーンなんかは日常生活に潜む悪夢をかなり上手に描き出している。
物語は妻の尻に敷かれている雑貨屋の店主がカリフォルニアのオレンジ農園を購入して一家でやってくるが、広告とは似ても似つかない代物だった、というもの。これは完全にアメリカンドリームの再現とその終焉であり、大恐慌を経験したアメリカの状況をよく表している。映画としては現実味の薄いハッピーエンドで終わっている。その方が後味も良いコメディになるから構わないんだけど、個人的には悲惨なエンディングを迎えるコメディってのもいいと思う。
最初に出てきた感想は"何やビビって損したわ"というものだった。本作品は外国産コメディ特有のノリは苦手な人でも楽しめる楽しい作品だった。