T太郎

ハリーの災難のT太郎のレビュー・感想・評価

ハリーの災難(1955年製作の映画)
3.8
987
久しぶりに鑑賞。
ヒッチコック作品だ。
コメディである。

木々の葉が野山を色とりどりに染め上げる小春日和の朝。
美しい田園地帯を臨む小高い丘に、一人の紳士が横たわっている。

ハリーだ。
「ダーティーハリー」「ハリー・ポッター」とともに、世界3大ハリーのうちの一人である。
嘘である。

ハリーはお亡くなりになっている。
こんな人通りのなさそうな丘の上でひっそりと・・・
一体どのような事情でこんな事に。
そういえば先ほど、3発の銃声が鳴り響いていたではないか。

その銃声の主は、麓の町に住むワイル船長だった。
彼は森でウサギ狩りを楽しんでいたのだ。

獲物はどこだ。
確実に手応えはあったぞ。
確か、このへんで・・・
ややっ!
人が倒れているぞ!
これは一体・・・

ワイル船長は、自分がハリーを誤射してしまったと思い込む。
うろたえる船長。
彼は、とっさに死体の隠蔽を考える。

とそこに、ご近所のミス・グレブリーをはじめ、ミセス・ロジャース親子、読書家のお医者さん、流れ者・・・次々と人がやって来る。
千客万来なのだ。

なぜ、今日に限って?
こんな寂しい場所にこんなにも人が来るのだ。
頭を抱えるワイル船長。

この序盤の展開が面白い。
ハリーの死体を見た人々の反応が、浮世離れしていて実に愉快なのだ。

尊厳とか哀悼とか懼れとか、人の死に伴う通常のあれこれが希薄なのである。
この感じは物語全般を貫いており、ハリーの死体は非常に軽く扱われるのだ。

Oh、哀れなハリー・・・

更に機会をうかがうワイル船長。
今度は売れない画家のマーロウがやって来る。
本当に千客万来だ。

なんやかんやあって、マーロウは船長の隠蔽工作に協力する事になるのだが、やはりハリーの扱いは軽い。
この後、何回も何回も何回も埋められたり、掘り起こされたりを繰り返すのだ。

Oh、哀れなハリー・・・

どのような結末を迎えるのか読めない物語ながら、とにかくワンシーンワンシーンがほのぼのとしていて面白い。
ハリーには申し訳ないが、面白いのである。

この作品はヒッチコック作品としては実に異色だと言える。
サスペンス色は薄く、コメディ色の方はバリ堅で強いのだ。

「鳥」や「サイコ」も異色だったが、この作品は逆の意味で異色なのである。

ブラックコメディというほどブラックではないし、さきほど述べたとおり、実にほのぼのとしているのである。

もう、ヒッチコックというだけで格調高いような気がする。
許せるような気がする。
一見、不謹慎なのだが、全く問題なしなのである。

シャーリー・マクレーンのデビュー作らしい。
大抜擢だが、ヒッチコック作品のヒロインとしては異色なタイプだ。
庶民的で可愛らしく、この作品に合っている。
私は大好きだ。

確かにグレース・ケリーやキム・ノバクでは綺麗過ぎて役柄に合わないだろう。
彼女たちはミステリアスで都会的な役が似合う美女なのである。
私は大好きだ。
T太郎

T太郎