キャプまる

新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君にのキャプまるのレビュー・感想・評価

2.8
アニメ版を試聴した直後に鑑賞。

結論から言うと、これならまだ説明不足ながらも「自分とは?」と言うテーマに一つの答えを主人公の成長とともにわかりやすい説明セリフで示したアニメ版の方が面白かった。

本作はアニメ版最終2話分を新たに描きなおした物語ということで、あのセリフで説明して映像ではあまり表現し切れていなかった感が否めないアニメ版とは違って、映像で新たな答えを提示するものと思っていた。
しかし、結果は監督のエヴァンゲリオンのファン?アンチ?に対する私的な仕返しとも取れるような表現が入った作品となった。

まず前半はカヲルを殺したあとの展開としてアニメ版よりも納得のいく正当な続編と取れるようなワクワクするもので、使徒を殲滅したあとに人間同士で争う「他人と自分」というテーマにも通ずる展開で面白かった。
アスカが自分を見つけ自己肯定するようになり戦うシーンはアニメーションとして面白い。
塞ぎ込んでるシンジに対してのミサトも、他人との肉体関係で求められることでしか自己の存在価値を見出せなかったミサトが、シンジとは分かり合えないままでも自分なりのやり方でキスをして帰る場所を作ってあげる、というミサトなりの他人との関わり合いを完結させてるのも良かった。

しかし、後半はもはやわざと意味のわからない展開にしているんじゃないかというぐらい説明不足で、劇場版を描いた意味があったのか疑問に思える物語になってしまっている。結局は説明不足と理解しにく過ぎるという点においてアニメ版の焼き直しになっている。

確かに本作ではシンジの成長がアニメ版と比べると中途半端なところで終わるという点やはっきりと補完計画を映像で描いている点がアニメ版とは違う。
結末も違えば、補完計画の中でシンジが感じとるものも違うしそれに伴う演出も変わったものになっている。
例えばおそらく当時のネットの掲示板などの庵野監督に対するアニメオタクの批判に対して、それをあげつらって他人との心の壁、分かり合えないというシンジの気持ちを表現しているのは革新的だと思うし、アニメ版当時とは違う庵野監督自身の他人という存在の捉え方だとは考えられる。

しかし、興味深くはあってもそれを物語に混ぜ込むのが少々強引に思えてならない。現実世界を写して「都合の良い夢で現実に復讐していたのね」「虚構に逃げ込んで現実をごまかしていた」というセリフとともに劇場の観客を写したり群衆の中に綾波たちを混ぜ込んだりと、徹底して観客にハッとさせるような訴えかけるような演出になっている。綾波に言われているようにエヴァという虚構に逃げ込んでいるのは現実の観客たちで、シンジは観客たち自身だとでも言われているような演出は挑戦的で面白いが、その前後の展開と辻褄があってなさそうで、無理やり合わせても物語として面白くもないというのが一番残念な点。

シンジが孤独をやめる思考に至るまでの説得力もないし、その後にアスカの首を絞めるのも他人が怖いということの表れということで無理やり納得できないことはないが、やはり物語的に面白くもないし展開に説得力がないので盛り上がりようもなく主人公の成長という点から見ても納得のいくものではない。

これなら本当に説明不足の駆け足展開という点においてアニメ版の焼き直しだし、アニメ版最終回の方が良かったという結論にならざるを得ない。


前半はアニメ版と違いしっかりとテーマをつなげて描いていたのに、後半になるとまた尺不足なのか説明不足で説得力のない展開になってしまったのが非常に残念。
アニメ版はテレビ放送と制作のスケジュール等で説明不足のあの展開と映像表現にせざるを得なくなったというのはわかるが、それを書き直すという目的の本劇場版でも同じことをしたら全く意味を為さないと思う。
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