キッチー

大いなる幻影のキッチーのレビュー・感想・評価

大いなる幻影(1937年製作の映画)
4.2
アメリカ亡命前のジャン・ルノワール監督の名作。ウディ・アレンも好きな映画に上げていますね。

第一次世界大戦下のドイツ軍に撃墜され、捕虜収容所に送られたフランス人の将校、ボワルデュール大尉(ピエール・フレネー)とマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)。彼らは収容所で他の捕虜たちと何度も脱走を試み、失敗。ドイツの古城に移されることになる。

移動した二人は彼らを撃墜したラウフェンシュタイン大尉(エリック・フォン・シュトロハイム)と再会する。
貴族で大尉という同じ境遇のラウフェンシュタインとボワルデュールには友情が芽生えるが、再度脱走を試みる際にボワルデュールが囮となり、ラウフェンシュタインの銃弾に倒れてしまいます。

その後、脱走したマレシャル中尉とローゼンタール中尉(マルセル・ダリオ)は隠れてスイスに逃げようとするが、途中、農家のドイツ人母子に匿われ、数ヶ月滞在した後に国境を越えようします...

ラウフェンシュタインが、貴族で大尉という同じ境遇のボワルデュールに友情を見せるようなシーンがあり、彼が未だ騎士道精神を持つ人間的に好ましい人物のように感じました。
そして、マレシャルが農婦のエルザ(ディタ・パルロ)を愛し、戦争が終わったら迎えにくると約束して去っていくところ、良かったですね。幻影が現実になることを願いたくなります。

最後に国境を見せるところはうまいですね。
雪の中、見た目には何もないところに国境が引かれていて、国境を越えた途端、ドイツ兵は逃亡者を追撃出来なくなります。名シーンですね。そういう面ではホッとするのですが、この映画はそれだけではなく複雑だと思いました。
国境は地図の上だけでなく人々の心の中にも存在し、それを越えるには友情や愛の力を必要とするとも伝えようとしているように思いました。

ジャン・ギャバンが出ているものの、この映画は彼だけではなく、ピエール・フレネーやシュトロハイム、マルセル・ダリオの存在感も際立ってました。
特にシュトロハイムは俳優だけではなく、サイレント映画の監督で巨匠と言われている人であり、ルノワール監督も尊敬していたが、リアリティを追及する監督らしく、細かいところにリアリティを求め、色々とお 金のかかる注文が多かったようですね。調べると面白い人物のようでした。

収容所の捕虜たちが生き生きと描かれているのは、群衆を生き生きと描く、ルノワール監督ならではですね。まだ第一次世界大戦の頃までは収容所も少しおおらかな感じだったのでしょうか。フランス人捕虜に送られてくるものは高価な食料ばかりなのに、ドイツ兵に届くのは本ばかりだったのには笑えました。
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