盟友ジーナ・ローランズとピータ・フォークが異次元の存在感だ。二人の名演は映画史に残るといっても大袈裟ではないと思う。
完全にアドリブと思われるのだがジーナが台詞を言うでもなく唸るような奇声を発し、手話のような妙な動きでピーターに絡む。これもアドリブなのだろうピーターがジーナの作り出した謎の世界観に反応し咄嗟に応じる。
日常が映画の世界にスライドして繋がり何十年も共に暮らしてきたとしか思えない夫婦の機微を繊細に残酷に演じる。
カサベテス監督作は時に構図や脚本を全て置き去りにして俳優たちに惹き起こされているエモーションを取り憑かれたようにカメラで追いかけるのが特徴だが、今作全編にそれが見られる。
素っ頓狂な音楽と共にいそいそと営みの準備をするシーンには笑いながら泣いてしまった。
極限の状況の中で追い込まれ最後の最後に残った夫婦愛が高純度に剥き出しになり、生々しくかつ力強く息づく名シーンだ。