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廃市のcのレビュー・感想・評価

廃市(1984年製作の映画)
3.5
先日、埼玉県にある深谷シネマで『廃市』を観て、大林監督のお話を聞いた。元は酒蔵であった深谷シネマは圧倒的な雰囲気を持ち、家々に囲まれている地にあった。
この作品は、映画製作の合間に二週間の夏休みを貰った大林組、「さて何をしようか?」「何するのが一番楽しい?」「映画を撮るのが一番楽しい!」という流れで作られたそう。このエピソードだけで、さすがという感じ。

福岡の柳川という小さな町が舞台。大学の論文を書くために、親戚の知り合いの家で過ごすことになった江口という男のひと夏の話。その家に住む若い女、安子を小林聡美が演じる。安子の覇気があるようでないような憂いを帯びた雰囲気が、のうのうと生きてきた彼を妙に惹きつける。
水路が張り巡らされたこの町の移動手段は水の上を滑り行く舟。川のように流れ、通り過ぎていく時間は、一見穏やかに見えるが、安子の言う「この町は少しずつ死んでいるの。」という言葉のようにゆるやかに死へと向かっているようにも取れる。
ちょくちょく登場する船頭の少年は、尾美としのりが演じている。ほとんど言葉を発さないが視線で物語る様は力強く、唯一この映画から生と動を感じ得た。

ラストのこの町を後にする江口の辟易してしまうほどの明るい馬鹿っぽさが、呆気なく安子を通り抜けていく様子に(またこの時はそれを何とも思っていない江口に)、私は無性にいたたまれない気持ちになった。
そして、何年も経ってから回顧した時の彼の気持ちが作品の冒頭の語りに繋がっていくわけである。
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