櫻イミト

たそがれの維納(ウィーン)の櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.0
数少ないクラシックのオーストリア映画。「未完成交響楽」(1933)のヴィリ・フォルスト監督が翌年に制作。文春文庫”とっておきの映画ベスト150”第四位。演奏はウィーン・フィルハーモニー。

不倫と浮気にさんざめくウイーン社交界。ある雪の夜、医者の若い妻は舞踏会を抜け出してプレイボーイ画家のアトリエへ。あくる日、マフで腰だけ隠したマスク姿の裸婦画が新聞をかざり騒ぎになる。モデルを尋ねられた画家は架空の名前を挙げるが、偶然にも同名の女性が街に実在し二人は引き合わされる。。。

維納(ウィーン)という漢字を初めて知ったし、”マフ”という手袋代わりの円筒形防寒具も初めて見た。それだけでも失われた戦前文化に触れる機会となった。

映画本編も戦前ウイーンの華やかな社交界を描くもので、艶笑タッチの恋愛サスペンスだった。個人的に戦前の社交界艶笑系映画が苦手なので、それほどは楽しめなかったが、個性的なシチュエーションの良作だとは思う。ちなみに裸婦像は最後まで観客には示されない。チンチラ毛皮のマフや煙草ケース付き拳銃など、小物が興味深かった。

本作の直後にウイーンには軍拡の波が押し寄せる。「サウンド・オブ・ミュージック」(1965)の舞台は本作から4年後(1938年)のオーストリアである。

※クラシック映画でウイーンロケの作品は殆どがドイツ映画。同年の「会議は踊る」、古くは魔都ウイーンを活写した「蠱惑の街」(1923)など。
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