私が三島由紀夫の小説で一番好きなのが「豊穣の海」。この輪廻転生を描いた四部作の第一部が「春の雪」。なので、どうしてもこの原作から切離して観ることは不可能だった。主人公、松枝清顕の友人である本多は、原作では、観察者としては一級品の慧眼の持ち主、しかし、体現者としては凡庸。なので、登場人物の中で彼だけが4つのドラマの本質を理解し、ある意味、それを堪能し、その記録者となっている。従って、かなり屈折した心境の中で行動するが、この映画では、その行動は友情の発露である。また、何より、この「春の雪」は、本多が彼だけが気づく輪廻転生のラビリンスの序章であり、この続きが語られないのは、私にとっては、かなりの消化不良である。