おてつ

リトル・ダンサーのおてつのレビュー・感想・評価

リトル・ダンサー(2000年製作の映画)
5.0
イギリスの北東部の炭鉱の町ダーラムに住むビリーには乱暴で利己的な兄、強情な父とアルツハイマー気味の祖母がいた。背景はストライキ真っ最中でビリーの父と兄は炭鉱の労働組合側でスト破りし、普通に働く人達に容赦が無い。そんな中でビリーはある時、いつものボクシング稽古中に同じフロアでバレエの練習を目にし、一気に虜になる。そして家族には内緒で、女の子に紛れバレエの練習を開始する。

男は男らしいスポーツをするという固定観念を消し去る構成は流石の妙である。生まれながらにして炭鉱育ちの父。マスキュリズムの権化といっても過言では無い様な存在だ。最初、彼はバレエなど女がやる物だと言ってビリー自身を批判する。ビリーはそんな考え方に抗う。ビリーと父を仲介するのはミセスウィルキンソンで彼女はバレエをどうしてもやりたいビリーに手を差し伸ばし父に対抗していく。ウィルキンソン先生の審美眼的な洞察力だったり温かい包容力にとてつもなく感動した。

しかし、そんな厳格な父でも人間らしい人徳の持ち主なのだ。ある時、ビリーが夜中にバレエを練習している所を見る。ビリーの表現力の凄まじさや素晴らしく力強い物に考えが一気に変わる。“ビリーの夢を叶えてやりたい”という思いが一気に芽生える。それが異常な程に感動を誘う。父がスト中にもかかわらず、ビリーを思い、働こうとする所に兄がきて父を止めようとするシーン。ここの父の本音や力強い演技に涙涙😭。

男性主義に対する痛切な批判をバレエという物に取り入れるのは斬新であり、ビリーがそれから解放されて全身全霊でバレエを楽しみ、電気の様に軽やかにダンスをするシーンは異様なほどに心が浄化される。素晴らしい作品でした〜何度でも観たくなる作品。
おてつ

おてつ