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エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事のtakのレビュー・感想・評価

3.5
恋愛映画なのに大きな出来事が起ころうとしないし、結局何事も起こらない。しかしこの映画が他のビジュアル重視の大作たちよりも強く印象に残るのは、心理的な葛藤を掘り下げた演出と、それを見事に表現してくれるキャストに支えられているからだ。19世紀末のニューヨーク。誰もが偽りの仮面の下で情熱を抑えて、見た目平穏な日々であった。清楚で大人しくつつましい女性たちが多い中、情熱的な伯爵夫人が登場することで主人公の心はかき乱され、歯車が狂い始める。

ダニエル・ディ・ルイスは主人公が憑依したような見事な演技。ミシェル・ファイファーは、やや疲れた表情の中に熱いものをにじませる。そして主人公の婚約者役ウィノナ・ライダーが、穏やかな外見の裏にこもった怖さを感じさせる。衣装デザイン賞を獲得した映画の表面的なビジュアルはもちろん素晴らしいのだが、それ以上にキャストが演ずる心理戦こそがこの映画の見どころ。社交界の華やかさとその裏側の冷たさ。そこで暮らす人々の孤独感。現代とは違っても、ニューヨークを舞台にしたスコセッシ監督の他の作品と共通する寂しさが感じられた。
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