葉野宗介

16 [jyu-roku]の葉野宗介のレビュー・感想・評価

16 [jyu-roku](2007年製作の映画)
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『赤い文化住宅の初子』の主演女優、東亜優の撮影前後のエピソードを本人主演でひとつの映画として撮っています。
10年ぶりぐらいに観ましたがとても良かったです。

まだ幼さの残る少女と少年の恋にならない距離感での出来事を淡々と描きます。やり過ぎない演出が一貫しており、主人公のあどけなさも悩みも「売れそうなもの」にすることなく、東京のなんかいいなと思える風景をバックに派手さはなくとも心に残る映画になっていると思います。

主人公は女優のオーディションに合格し東京に出て来たばかりの少女、田舎に育ちスレていない彼女は良い意味でも悪い意味でも悩みきらないところにリアリティがあり良いです。
マネージャーさんが実に素晴らしく、キャラも演技も好感を抱きました。少女の両親もなのですが、この頃の邦画にはそれ以前のものによく出てくる「とにかく特徴の強い登場人物(両親)」とそれ以降によく出てくる「とにかく優しい人物(両親)」の間ぐらいの「完璧じゃないけどまあ基本的には優しい」人達で、景気のせいもあるのでしょうが抑えめでやれて良い時代だなと思います。

ただ主人公の先輩俳優に向けた憧れにも似た初恋めいたものだけが抑えてるということとは別のベクトルで弱いと思います。特に締め方があまりに普通で、ガラスケースに入った特別な出会いにしなくていいので、現実にありそうだからといって見るに値しない物にしてしまってはいけないと思います。そこは捻る余地が絶対にあります。他のシーンに比べるとどうしても散漫に映りました。

その点幼なじみの少年を描く熱量は素晴らしく、彼の悩みや苦しみは彼の世代のキャパシティでのみ成立するものになっていて実に良いです。
柄本時生さんの演技で生まれた底の深くないゆえに悪い奴じゃないだろうと伝わってくる部分も好きです。彼は俺たちに明日はないッスの演技も良かったですが、憎めない、なんとなくほっとけない子を上手く表現していると思います。絶妙に寂しそうです。

近いうちにまた観たいです。
葉野宗介

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