葉野宗介

フル・モンティの葉野宗介のレビュー・感想・評価

フル・モンティ(1997年製作の映画)
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プロ並みのダンスシーンやショウが無いと感動できないってコメントには辟易させられる。そういう観客が多いから、俳優の演技ではなく「〇〇日練習した」「実際の〇〇に習った」みたいな付け焼き刃の煽り文句がまた増える。結局半端な素人の見せかけお遊戯なのは変わらないんだから、ギャップを埋められるのはそのキャラクターが踊るならどんなプロよりも見たいという気持ち。脚本や映画のシーンがその気持ちを作れなかったのなら残念だけど、プロのダンスはもっと切れがある、みたいに言ってる人はそっちを見てりゃいいんです。感想として的外れなことを理解してほしい。そして消え去ってほしい。

金が欲しいっていう目標に主人公が息子と会う為にっていうフォローを付けてるのがメガヒットの勝因だと思う。マンチェスターの貧困、だけがテーマなのも面白いけど、やっぱり時代を越えても安心してみられる内容なのはここかな、とてもキュートだと思う。
明日生きる金が無い状況の気持ち、惨めさを本当によく表現してると思う。暗い印象もあるけど、明るい方がおかしいし、ポップさは失ってない。オフサイドトラップのくだりとか、冴えない俺たちにも、だからこそできることがあるのかなって思わせるのは上手い。
息子のお金おろすシーンには泣かされる。

ホットサマーのシーンは笑わされた後に号泣必至なところだけど、あそここそそもそもの面白さに、これまで彼らがどういうことをしてきて、どんな奴らで、どういう状況になったという重なりがあり、構造的な良さ、テクニックだけでなく映画というものの素晴らしさを感じる。

監視カメラのシーン。彼らは滑稽に映るが、努力する者を嘲笑うことが何より滑稽だということがわかる良シーンである。

終盤、ひとつずつかたしていく展開が滑らかとは言えないが、この独特の未整理のテンポがハリウッドの「よくできた寓話」感ではなくマンチェスターの黒すすのついた物語、って感じがして個人的には好き。

しかしこの映画のラストに美しいダンス見たいかな…自分には本当に理解できない。
「俺たちは美男子じゃない、踊りも上手くない、だけどフルモンティだ」っていうのが良いわけで、このさらけだす物語が好きだ。
葉野宗介

葉野宗介