Jeffrey

永遠のハバナのJeffreyのレビュー・感想・評価

永遠のハバナ(2003年製作の映画)
5.0
「永遠のハバナ」

〜最初に一言、もし私が2000年から2010年の間で10本のフィルムを選ぶとしたら間違いなく、この作品を選ぶであろう。映像と音で綴られたこの作品を私はキューバ映画の史上最高傑作と呼ぶ〜

本作の解説をYouTubeでやってますのでよかったらどうぞ。

https://youtu.be/XHgPFRiWhU8


冒頭、ハバナの夜が明ける。灯台の明かりが消えて街と人が動き出す。そして1日がスタートしていく。チェ・ゲバラの写真、街を見守るジョン・レノンのブロンズ像、厳しい現実、夢を持つ様々な人々、ダンサー、ピーナッツ売り、工事現場作業員、そしてハバナの組曲。今、愛すべき街と人々が織り成すハバナの物語が始まる…本作はフェルナンド・ペレスが2003年に監督したキューバ映画で、彼はキューバ界の第一人者とされており、首都ハバナで暮らす人々の生活を追った84分の映画なのだが、これまた超絶傑作で今年見た旧作でダントツかもしれない。


ドキュメンタリーなのだが、同じくキューバ映画の「ルシア」と言う作品を見たのだが、こっちも大傑作でそのDVDの特典に入っていた予告の1つに「永遠のハバナ」があって、それを覗いてみたんだよ、そしたら冒頭から吸い込まれるような美しいキューバの都市とそこに住む人々のたわいもない生活が映され、後半から美しいギターの音色が奏でられる音楽に完璧にやられてしまって、いざ見てみようと思い調べたら配信も貸し出しもされておらず、セル版のDVDしかなくて購入しようと思ったら廃盤で、高値だったが購入した。あまりに観たすぎて…結果先ほど鑑賞したが、超絶傑作。繰り返し言う超絶傑作。

この映画はマレーシア映画のジャスミン監督の「タレンタイム〜優しい歌〜」が好きな人は確実に見て損は無い。特にあの作品の主人公の男の子が歌う"I Go"が好きなら絶対に見て欲しい…と言いながら見る術が購入しかないのが非常に残念なのだが…モドカシイ。

その予告の冒頭で流れる一文にまず衝撃を受け、と同時に感動した。2003年、 1本のフィルムがすり切れるまで上映された。って言葉なのだが、物凄く伝わり貧しい国家ながらにキューバの人たちは希望や不安、生活の喜びなどを分かち合っている姿が泣けて泣けてしょうがない。こんな淡々と映し出すキューバの街並みの美しさを捉えた映画は他にないだろう。

そもそもキューバと言う国はすごく情熱的で激しくてラテンミュージックで踊るのが好きで、騒がしい国柄だと思っていたが、この作品は非常に静寂に満ちていて、こんなキューバがあるんだと垣間見れて非常に勉強になるし、良かったと思う。

この映画の説明文に"1本のフィルムが擦り切れるまで上映された私たちの物語"とあるが、調べてみると当時監督は娯楽を求めて映画館に集まるキューバの観客に自ら撮ったこの静かな作品が受け入れられるかどうかを心配していたそうだ。特に宣伝もしていなかったが、口コミによってロングランし、1本しかなかったフィルムがボロボロになってしまい、全土で30万人以上を動員して毎回エンドロールが流れるたびにスタンディングオベーションが起こったとの事である。

この作品の素晴らしいところは数多くあるのだが、いくつか紹介すると、まず俳優が誰も出演していないと言うことである。演じるのはハバナで生活する無名の人々である。そういった中、ジョン・レノンのブロンド像を守る人々のショットが入り込んでくる。なぜ彼のブロンズ像が守られるかと言うと2000年12月8日にレノンの20周忌除幕式が行われた際に、早速翌日彼の丸メガネが盗まれたとのことで像を守るために当時の住民は昼も夜も雨の中も市民が交代で見張っていたそうだ。そのブロンズ像の足元に刻まれた名曲"イマジン"のフレーズとジョン・レノンは夢を追い続けるハバナの人々が守り抜きたい砦なのであるとのことである。




さて、物語はハバナの夜が明け、活気よく街が目覚めていく。そうした中、夢を持つ数人の老若男女の姿が映し出される。1人はプロのダンサーを夢見る、1人は高い所登る事。そういった普遍的なテーマがこの80分間のフィルムの中に凝縮される。


本作は冒頭から非常に引き込まれる。ハバナの夜更けが美しく映り、灯台の光に照らされてゆく。そして音楽とともに街の住民たちの私生活が捉えられていく。ある女性はジョン レノンの銅像の前に座り彼を眺める(それは誰にも壊されたり盗まれないように監視する役である)。ある少年(フランシスキート)は目覚まし音で起き、服に着替える。その祖母らしきノルマと言う女性が食事を作り彼を学校へ送る。

この少年の母親は亡くなっており、死別した父親が一生懸命彼を面倒みる。その父親の夢は息子から絶対に離れないことだ。その祖母は自閉症を負っている彼がきちんと社会に溶け込み、まっとうな人生を送ることを夢見ている。カメラは室内から路上へと流れるように動き出す。

街の騒音、静かな朝方、自転車に乗っていた男性がハイヒールを男性に渡す(どうやら修理のようだ)。そして、もう1人の男性(自転車に乗りながら)登場する。カメラは街にそびえ立つ1本の柱を捉え、そこに佇む79歳のおばさんを捉える。そうした中、様々な人々のクロスカッティングが映し出され、物語は静かに始まっていく…。


街の解体されていく工事現場や建物を、そうした雰囲気の中子供の笑顔や、女性が誰かを呼ぶ声、様々な騒音の中、男性の手のクローズアップや横顔、手紙を読む姿、黒板に文字を書く少年の姿、老婆が玉ねぎをスライスカットする画、荷物を肩に背負い次から次へと運んでいく青年の姿、昆虫を観察する自然主義の男性、ハバナの組曲とされ、かすかに音楽が街に流れ始める瞬間、美しい街の住人の女性のグラマラスなボディーが垣間見出始める。

そうした中、ハバナに住む12人の人々が一斉に食事をするカットバックへと変わり、漫画を読む男性、占いをしてもらう女性、髪を整え身支度をし空港へ向かう男性の姿、花を購入しに来た中年の男、友人達と再会する男性と老婆、涙をする。複数の少年たちの笑顔が映り込み、花を購入した男(死別した奥さんの墓場)は墓地へと足を運ぶ。なぜだか空港にいる少年は目に涙を浮かべる。

そして街の屋上ではピエロが子供たちに楽しく踊りを伝えながら、赤青白は何色?と良い子供たちはキューバの国旗の色だと答える。そして手品を見せ帽子の中から可愛らしい少女がキューバの国旗を手につかみ、それを堂々とを掲げる。そうした中を飛び立つ飛行機のカット割を映し、街に雨が降る。そして穏やかな音楽と共に街を掃除する20歳の青年や出向する船を街のビルとビルの間から捉える。

そして物語が佳境に入り、新たな登場人物が増えていく。キューバの音楽"夜が明ける"が流れ始め、ハバナの美しい暮色のショット、髪をとかす女性の手元、スーツに身を包む男性の鏡のショット、靴を一生懸命に磨く男の人、ピーナッツを紙袋の中に入れる女性、少年と食事をする祖父、体を洗いシャワーを浴びる。そしてテレビの中からこの映画で、最も私が素晴らしいと思った音楽を奏でる1人のシンガーソングライターの映像が映し出され、それに食い入るように見る老婆の姿、それを食事する人々のカットバックとともに流されるシーンが出現する。ここがものすごく感動する場面である。

そしてカメラは20歳エルネスト1人の青年が口紅をする場面へと変わる。彼は女性のドレスを着て劇場で演劇を披露する。彼の夢は役者になることだ。そして母親に親孝行をすることである。そしてハバナのライブ会場へと足を運ぶ男性、音楽が流れアーメンと言う言葉が発せられ始める。そうした中、ハバナの洋夜更から明るい日中のバイタリティーあふれる活動がおさまりを求める夜へと変わり、住民は寝床につく。それを見守るように灯台の光が360度回り照らしてくれている。

そうした中、登場してきた人々の紹介が始まり、それぞれの生い立ち、いきさつ、そして夢が語られていく…。

いや、この作品初めて見たが「タレントタイム」ぶりに号泣した。とんでもなく素晴らしい映画だ。とりわけシルビオ・ロドリゲスの音楽が素晴らしくて絶対に見たものは涙する。それに永遠の名曲とされるオマーラが歌う"キエレメムーチョ"と言う音楽を聴くとキューバ人の誰もが目を潤ませるとの事。この曲は〜遠く離れては暮らせない。本当に愛し合っているのなら〜と言う意味合いが入っているので、映像の飛行機が飛び立つときの分かれるシーンなどを彷仏させる。



埃まみれの扇風機のクローズアップがあるのだが、それが何でか魅力的である。どってことないただの扇風機なのに。それにやはりピーナッツ売りをハバナの街でしている79歳の老婆の姿には胸が苦しくなる。彼女の夢だけが唯一この映画では明かされていないのである。それがすごく引っかかってしょうがない。

この映画はただ見ているだけで慟哭してしまう。この10年で最高のキューバ映画。これは監督からハバナへの愛の告白だと言うラテンアメリカオンラインの言葉の意味が非常に映画を見終わってからわかる。なんだろう見終わってからまたすぐに見たくなる映画って滅多にないのだが私の中では、この作品はこれから何度も見ていくと思う。

これほどまでに制作側の優しさを感じる作品も滅多になく、人々の強さと優しさを前面に押し出した日常の物語が本当に素晴らしい。きっと自分が還暦を迎えて、もし息子、娘や孫に思い出のある映画は何かあると聞かされた時にきっとこの作品のタイトルが出てくると思う…。

本当に素晴らしい映画なのでぜひ見てほしい。1日1日の大切さを身に染みた1本だ。

あぁ、傑作。
Jeffrey

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